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【酔っ払い失敗談】初めての父娘飲み!スナック泥酔ラビリンス

わたしは「よし今日は飲むぞ!」と思って飲むと、3回中2回は記憶が飛ぶ。

それはもう華麗にすっぱりと記憶が抜け落ちる。でも大抵の場合、記憶がない状態でも普通に話したり飲んだりしているのでやっかいだ。周囲の人はわたしの酩酊に気づかず、普通にお酒を飲ませてくれる。そしてわたしもリミッターが外れた状態で飲み続ける。そして見事になんの記憶もない状態で朝を迎えるのだ。「あれえ?なんか楽しかったような気がするけど、一体どうやって家に帰ってきたのだろう」あの不思議な感覚。ミラクル泥酔ラビリンス。

この記憶がなくなる癖は、父親からの遺伝だ。わが父もお酒を飲んではしょっちゅう記憶を飛ばす。「いやあ昨日は2次会でな、スナックいったら10万使っちまったよ。お母さんには秘密だぞ」そんな話をお酒を飲みながらガハガハとする(ちなみに母はそう遠くない距離で料理をしていて、後ほどたっぷり怒られたりする)。父とわたしは外見だけではなく性格も似ていて、さらにお酒の飲み方までも同じだった。

そんな父とわたしは似ているからこそあまり仲がよくはなく、中学生時代から長い長い冷戦状態が続いていた。そうこうしている間にわたしは家を出て、堂々と飲める年になっても、ふたりで一緒に仲良く飲むなんてことはなかったように思う。

はじめてふたり揃って記憶を飛ばすほど飲んだのは、わたしの結婚が決まったときだった。旦那(当時は彼)と帰省していた弟の4人、実家でしこたま飲んだ。何を飲んだのかは覚えていないけれども、とにかく飲んだ。そして飲み足りなくて、寒空の下近所のスナックへと繰り出した。わたしの生まれ育った場所は山の中なのだけれども、そこには大きな自衛隊があって自衛官向けの小さなスナックがたくさんあるような場所。その中の一軒で父の行きつけのお店へとふらふらと向かった。

「おい、ママ!来たぞ!今日は娘と一緒だ」

案内されないうちに、奥のソファーにドカッと座る。

「ボトルあっただろう?追加で新しいのも入れていいから。あと生4つね」

店内にはカウンターにカップル2人組と、自衛官らしき団体が数組いた。わりとムーディーな店で、静かな店内に父の声が響き渡る。一瞬(ちょっと空気読んでよ!恥ずかしいじゃん)などとと思ったものの、運ばれてきた生ビールを飲んだ瞬間にその気持ちはぶっ飛んでしまった。生ビールうまい。

「かんぱーーーい!」

そこからわたしたちは再び飲んだ。10分おきくらいに意味のない乾杯を繰り返し、ビールを飲み、焼酎を飲んだ。わたしは飲食店で働いていた腕を見せるべく「わたし焼酎つくる腕はプロだから。ってかプロだから」と言い、こぼしながらやたらめったら濃い焼酎の水割りを作り続けた。父は相当に気分が良くなったのだろう。カウンターに向かって

「おい!ママ!ビールでもなんでも好きなの飲んでいいぞ」

そう何度も叫んでいた。

「あら、じゃあいただきますね」

そんな反応に父はにこにこしていたのだが、それだけでは物足りなくなったのだろう。今度は店内にいるお客さんすべてに向かって

「おい!お前ら!ビールでもなんでも好きなもの飲んでいいぞ」

そう叫び始めた。

「いいんすか?あざっす!」

そこからはもうどんちゃん騒ぎだった(とおもう。なんせ記憶がほぼないのだから真偽のほどはわからない)。「いただきます!」とジョッキをもった自衛官たちが代わる代わるに訪れ、父と乾杯した。一緒に乾杯に交じったわたしは、誰に頼まれてもいないのに踊りながら濃い焼酎を一気飲みした。

ぶつかるジョッキの音、笑い声、グラスの中の氷の音、笑い声、歌う声、笑い声……

相当楽しかったように思う。あんまり覚えていないけれども、断片的にぐにゃりと歪んだ色あざやかでガチャついた光景を覚えている。

ふと意識を取り戻すと、うっすらと空は白み始めていた。そしてわたしは酔っぱらって泣いているスナックママとの硬く握手をしていた。なんでかわからないけれどママは感動していて、その瞬間に意識を取り戻したとはいえないわたしは、空気を読んでその手を強く握り返した。

店を出ると外は驚くほどに寒くて、でもまだたっぷりと身体にアルコールを含んだわたしはキャッキャとはしゃぎながら帰った。張りつめた朝の空気が現実的すぎて、だからこそ昨夜の宴会が異世界での出来事のように愉快でふわふわとしていた。父のことを思い出すとき、わたしは必ずこの時のにおいや感覚を思い出す。きっとこれからもずっとそれは変わらないだろう。

その後当たり前だが、全員母にたんまり怒られた。そして身体にたっぷりと染み込んだ焼酎はなかなか抜けず、うんうんと苦しみながら第二分解酵素(身体に残ったアルコールを分解するやつ)に「お願い!働いて~」と祈りを捧げた。それらもひっくるめて今となってはいい思い出だ。ちなみにあの日のお会計が一体いくらだったのかは、いまでに聞けずにいる。

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