ビールに心臓を捧げよ!ルッぱらかなえ(小林加苗)

ビアジャーナリスト/ビアテイスター ビールは欠かさず毎日摂取🍺 ▶執筆歴 和樂web…

ビールに心臓を捧げよ!ルッぱらかなえ(小林加苗)

ビアジャーナリスト/ビアテイスター ビールは欠かさず毎日摂取🍺 ▶執筆歴 和樂web(小学館) クラフトビール定期便オトモニ等 ▶雑誌 ビール王国 ▶メディア出演 日刊ゲンダイ ViVi web レッツエンジョイ東京 ▶ポートフォリオ beerbelly-kanae.com

マガジン

  • タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~

    時は江戸。もしくは江戸によく似た時代。 「泥酔して、起きたらみんなちょんまげだった!!!」 黒船来航により世間が大きく揺らぐ中、ブルワー(ビール醸造家)である久我山直也がタイムスリップしてきた。 そんな直也が転がり込んだのは、100年以上の歴史を持つ酒蔵「柳や」の酒を扱う居酒屋。そこで絶対的な嗅覚とセンスを持ちながらも、杜氏になることを諦めた喜兵寿と出会う。 ひょんなことから、その時代にはまだ存在しなかったビールを醸造しなければならなくなった直也と喜兵寿。麦芽にホップにビール酵母。ないない尽くしの中で、ビールを造り上げることができるのか?! ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。

  • お酒道中膝栗毛

    酒ッセイ(酒エッセイ) お酒に関するあれやこれやの滑稽集(たまにまじめ) 嗚呼、なんと愛しき酒ライフ。 1人飲みのお供に お酒でやらかして布団から出たくない日のお供になりたい 画像はオリゼーブルーイングのJAPANESE WHITE No.9ラベルです。 おいしいよ

  • 妖怪も酒に飲まれて愚痴を吐く

    嗚呼、生きずらい世の中よ。妖怪だって酒を飲んで飲まれて愚痴をはく。

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「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第1話

時は江戸。もしくは江戸によく似た時代。 その日、喜兵寿が店を開けようと外に出ると、銀髪の男が大の字で眠っていた。ぐうぐうと大きないびきをかく男の髪型も服装も、全く目にしたことがない妙ちきりんなもの。ここいらには傾奇者が多いとはいえ、こんなおかしな奴は見たことがなかった。 「おい、お前酔っ払いか?どこから来た?」 喜兵寿は持っていた箒で男の脇腹を小突いた。しかし男は全く反応しない。喜兵寿は大きくため息をつくと、男をさらに強く小突いた。昼間っから面倒事はごめんだが、こんなと

    • 【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ捌

      ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 「酒を入れていないと話がしにくいからな」 そういって2つ目の徳利に手を伸ばしながら、豪快に笑う。 「おう弟子。何度もいうがおれのことは師匠と呼べ。あと結論を急ぐな。気分が悪い」 どさっと座敷に座ると、なおを睨みながら煙管に火をつけた。 「……うい。師匠」 幸民はもったいぶるように長く細く煙を吐き出すと

      • 【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ漆

        ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 翌日。明け六つを待ち幸民の家に向かうと、なんとまったく同じ格好のまま座敷に胡坐をかいていた。積みあがった書物の中で、必死に何かを書きつけている。 「うわあ、まじかよ。徹夜で調べてくれてたのか」 「……そのようだな」 ふたりが家の中に入っても幸民はまったく気づく様子がないので、喜兵寿はつかつかと近づき、

        • 【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ陸

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 岡っ引きに目をつけられ、三か月以内にビールを造らなければ座敷牢に入れられてしまうこと。ビールには麦芽、ホップ、酵母なるものが必要で、いまは麦を手に入れ麦芽の準備をしていること。 「びいるにはほっぷという草が必要なのですが、それを入手する術がわからず困っているのです」 「……なるほど」 ひととおり話しを聞く

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        「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第1話

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        • タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~
          18本
        • お酒道中膝栗毛
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          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ伍

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 「出島ってふらっと行ける場所じゃないのか…!」 なおが驚いて声をあげる。歴史なんて所詮学生時代に少し齧った程度。そもそも記憶すること自体が苦手なのだ。赤点ギリギリで、いつもどうにか逃げ切っていたことを思い出す。 「出島はお上も統治できていない地だからな。あの場所に行ける日本人は遊女くらいだ」 「はあ、なる

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ伍

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ肆

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 「おう、喜兵寿。酒はうまかったが、お前いくらなんでも遅れすぎだろ」 酒を飲んだ幸民はまるで別人のように一気にオラつく。 「まさかこんなしみったれた量の酒が詫びの品ってわけじゃあねえよな?」 睨みつける幸民に、喜兵寿はもう一度頭を下げた。 「もちろんです。今度店で気のすむまで飲んでください」 「……った

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ肆

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ参

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 月の大きな静かな夜。ちゃぷんちゃぷんと音をたてる川のほとりをしばらく歩き、奥の道を進んだところに川本幸民の家はあった。 「ちょ……もう……むり……!」 かなりの早足で歩いてきたものだから、なおはぜいぜいと肩で息をしている。しかしそんなことお構いなしに、喜兵寿は幸民の家の戸を叩いた。 「幸民先生!柳やの喜兵

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ参

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ弐

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です 「それで、なおの国ではほっぷをどうやって入手している?」 「そうだな……自分たちの国で栽培もしているけど、基本は海外から買ったものを使うことが多いかな」 「海外、とはなんだ?」 「海外っていうのは……」 喜兵寿は声低く次々と質問してくる。その真剣な声は少し怒ってるのかな?と思うような圧があったが、それに

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ弐

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ壱

          ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。 ※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です ビールを造ると決めた夜。つるは久しぶりに酒を口にした。 「はあ……おいしい」 熱燗を口に運び、しみじみとため息をつく。絶妙に火入れされた日本酒は、血管を通って身体の隅々まで流れていく。 「よく考えたら、お酒飲むの下の町に来てすぐ以来かも」 そういいながら、つるは徳利に手を伸ばした。 「つるはいつも酒を

          【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ壱

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~幕間 | 堅忍果決 其ノ二

          寒造りも落ち着いたころ、下の町に酒を上納せよというお達しがきた。 「十一代目、どうします?このお達し、新しいご家老様から来てますけど、ええ噂聞かへんのですよ」 喜作が眉間に皺を寄せながらいう。 「それも十一代目に直接来いって書いてありますやん。何様やねん。あ、ご家老様やけれども」 「まあ案ずるな。大丈夫だ、まかせておけ」 源蔵はお達しを丸めると、袂へとしまった。 「これもまた何かの縁かもしれぬ。せいぜい柳やの名を広めてくるよ」 「でた、十一代目の口癖『大丈夫だ、ま

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~幕間 | 堅忍果決 其ノ二

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~幕間 | 堅忍果決 其ノ壱

          小さい頃、酒蔵は大好きな場所だった。寒造りが始まると、喜兵寿とふたりでこっそり覗きに行ったことを思い出す。 真冬の早朝。まだ外は薄暗いというのに、蔵の中は熱気で満ちる。米を蒸す湯気の向こうに見える男たちの背中は力強く、そしてとても神聖だった。 祖父はよく、醸造過程の日本酒を味見をさせてくれた。出来立ての出麹の歯ざわり、酒母の驚くような甘さと酸味。 それを喜兵寿と秘密を分け合うように味わった。「変な味」「どろどろだな」そんなことをくすくす笑いながら。 そこから何年か経っ

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~幕間 | 堅忍果決 其ノ壱

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第10話

          喜兵寿の言葉に、つるはさらにずるずると鼻水をすする。そんな皆の姿を見て、なおはそりゃあ大変だ、と頷いていたが、ふと思ったことが口をついて出た。 「あのさ、よくわかんないんだけど、なんで女は酒造りをしちゃいけないわけ?別に造りたかったら造ればいいのに」 ひゅっとその場が凍り付くのがわかる。その瞬間、なおは「しまった」と思ったが、言ってしまったものは仕方がない。空気が読めない、と言われるのは昔からのことだ。 「禁止されてる理由とか、俺バカだからわからないけどさ。うちのブルワ

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第10話

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第9話

          造り酒屋「柳や」は兵庫県伊丹にある由緒正しき酒蔵。伊丹は酒造業が繁栄する地であり、いくつもの有名な酒蔵が軒を連ねている。その中でも「柳や」の酒の味は群を抜いており、「上納するのであれば柳やの酒」といわれる程に各地に名を広めていた。 そんな柳や十代目当主、庄蔵の子として喜兵寿とつるは生まれた。二人の上には8つ程年の離れた源蔵。蔵は祖父の文蔵と庄蔵、そしてたくさんの職人がいて、毎日大賑わいで酒造りをしていた。 文蔵は抜群に耳が良く、よく「酒の声を聞けば、飲まなくったって酒の味

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第9話

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第8話

          店に帰る道すがら、つるは俯いたままずっと下唇を噛んでいた。涙が流れないようにだろうか、時折小さく息を吐くのが聞こえる。喜兵寿はそんなつるを背中で隠すように、先頭を黙々と歩いていた。 「ただいま戻った」 店に帰ると、「おかえりなさい」と夏が心配そうな顔で駆け寄ってきた。荷物を運んだまま、ずっと店で帰りを待っていたのだろう。そのままつるに抱きつき、背中をポンポンと叩く。 「大変だったね。戻ってきてよかった」 黙って頷くつるを、夏は再度ぎゅうっと抱きしめ、ゆっくりと座敷に座

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第8話

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第7話

          夏について歩いていくと、ものの5分もしないうちに大量の野菜を背負った喜兵寿の姿が見えた。なおと夏に気づくと、大きく笑って手を振ってくる。 「うっわ。まじでいた」 驚くなおに、「当たり前でしょう」とでも言わんばかりに夏が笑顔を向けてくる。 「二人揃ってどうした?珍しいな」 なおと夏は喜兵寿の下へと駆け寄る。 「喜兵寿、店に来た男につるが連れていかれた。つるは『兄ちゃん』って呼んでたけど、誰だあれ?!」 なおの言葉を聞くと、喜兵寿の笑顔が消えた。眉間に皺を寄せると、「

          「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~」第7話

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~第6話

          大通りをまっすぐに抜けて、路地を二つ。二八蕎麦は確かそのあたりにあったはずなのだけれども、いくら走っても見えてはこない。なおは流れてくる汗をぬぐいながら、じりじりと照り付ける太陽を睨んだ。 「あっつ!まじであっつ!ってかここどこだよ!」 立ち止まってあたりを見渡すも、右も左も長屋ばかり。なんとなくこっちだろうと思って走ってきたが、どうやら全然違うところに来てしまったらしい。一度店に戻って……と引き返すものの、また見たことのない場所に出る。 「なんだよ、ここ!迷路かよ!」

          タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~第6話