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私たちには屈しない強さがあるのだから

主人公のネジュマの真っ直ぐな視線に何度も心を揺さぶられた。彼女たちがサッカーを雨の中する楽しそうな姿をみて涙が溢れた。生きてきた環境も場所も違うはずなのにどこか、自分の記憶や感情とリンクして、声を上げて泣いている自分がいた。彼女たちは、ただただ自分らしく、生きたいだけ。
映画から溢れ出す底なしのエネルギーはネジュマ役を演じたリナ・クードリ氏や、監督ムニア・メドゥール氏の「パピチャ」としての思いが滲み出ているのだろう。

パピチャはアルジェリアのスラングで面白くて、魅力的な、そして通念に囚われない自由な生き方をする女子を指す。紛争が起こった90年代のアルジュリアの 女性に対しての不平等な扱いに戦ったネジュマやその友人達はパピチャだ。

監督のムニア氏はドキュメンタリー監督としてキャリアを築いてきた。そしてこの作品が初のフィクション長編作品だ。フィクションと言ってもこれは事実に基づく物語で、ストーリーから切実に語りかけてくるリアルは監督自身の経験を投影していて、ドキュメンタリーのようでもある。

1990年代、アルジュリアで紛争が起きていた時に18歳だったムニア監督は家族に殺害脅迫が届き、フランスへ移った。

主演の リナ氏の父はジャーナリストで彼女が幼い時に、家族は故郷のアルジュリアを離れなくてはいけなかった。

監督も主演女優も友人や親戚、そして生まれ故郷から、遠く離れた場所で新たに人生を築いてきた当事者なのだ。自分たちとして生きているだけで命が狙われる。そんな危険と隣り合わせだった。

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アルジェリアの紛争ではおよそ15万人が死亡し、数千人が亡命、100万人が国内避難民の犠牲となった。それが過去のこととされても、この映画の撮影のため、爆撃のシーンを再現した際には市民は死の音を聞き、過去を思い出し体を震わせた。心に焼き付いた傷や喪失は今も人々の心に深く残っているのだ。

本作品はアルジュリアの文化支援金も投入されているのにもかかわらず、本土で公開直前になって政府当局の判断で公開禁止になった。

自分たちらしく、真っ直ぐに生きる。権力や社会的圧力に決して屈しない。
そんなロールモデル・パピチャの彼女たちの生き方を監督はアルジュリアの人々にさぞ届けたかったことだろう。

しかし、映画を超えて、未だ人々の記憶に刻まれている、語り継がれるパピチャたちは心に存在するはず。

どんなに悲しく、苦しい記憶が刻まれてしまってもパピチャ達が真っ直ぐ生き通した事実を心の中で、永遠に生かしていきたい。

そして私もパピチャのように、わたし達が、わたし達らしく、安心して生きていけるように、真っ直ぐを見据えて歩いて行きたい。私たちには屈しない強さがあるのだから。映画の最後、ネジュマの変わらない真っ直ぐな瞳に優しさが帯びていたこと忘れない。 パピチャは最高にクールで愛に満ちている。そんな人に私もなりたい。

ロールモデルを見せてくれたこの映画に感謝する。そして同時に私たちは決して彼女達が生きた歴史を忘れてはいけない、同じことを繰り返さないために。

本国、アルジェリアでこの映画が公開されることを心から願って。パピチャ達へ日本から称賛の拍手を送りたい。

【著者】伊藤詩織(ジャーナリスト)
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映画『パピチャ 未来へのランウェイ』【10/30(金)全国ロードショー】


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