夢現な ぬるま湯 で
いつになったら覚めるんだろうか。
親の庇護で贅沢をする日々。何をせずとも死ぬことがなく、生きていく意味も分からなくなる。
幸せそうな親の顔。美味しいお酒に酔い、苦汁を濁すその顔は、何も果たさぬ寄生虫を培養させる。
虫ケラの私には、したいことがない。死なないから。生きているだけで幸せだから。
でもね、虫を養い、侵蝕されたこの家はやがてなくなる。それは音の無いまま突然訪れる刹那。
音の届かぬ、ぬるま湯の浴槽の中で死ぬんだ。窓の外なんて知らずに死ぬんだ。
いつになったら冷めるんだろうか。
静かで、子宮の中みたいで、一生眠っていられるこのぬるま湯の中から出る日を夢見ている。
熱を帯びた叱咤も、冷徹な勘当も無い。眠り続けて、知らぬ内に死ぬ。幸せなまま、愛も苦しみも知らずに、体温のまま死ぬんだ。
退屈に慣れることばかり得意になってしまった身体は、もうとっくのとうに死んでいたのかもしれない。
本当は覚めることのない夢で、冷めぬわけのない、夢現のぬるま湯。
本当はそんな世界に生きて、いや、死んでいるのかもしれない。
何も分からない。
分からないことが怖い。
ぬるま湯に浸かり続け、ふやけた身体は熱さも冷たさも感じられない、感覚器官の死んだ置物になってしまうだろう。
ならば、だから、私は、愛を、苦しみを探さなければならない。
酔いで誤魔化された苦味も、私に注がれる栄養も、臍の緒を辿るように、見なくてはならない。
目を開け、覚ませ、冷ませ、さませ。
醒めた世界で生きるのだ。熱を信じるのだ。
世界に飛び出す勇気のないちっぽけな私が、どこか遠くで、覚醒している私に会うために。
思い出せ、私。
本当はぬるま湯に浸かり続けてなどいない、今が刹那な夢だと信じるのだ。熱を帯びれる私を信じて、静かな世界なんて、つまらないと拒否してしまえ。
お願いだ。
分からなくなる前に、きちんと死んで、生きていける知覚を。私は心躍らすことの出来る生命体だ。
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