『潜熱』感想

あれはまだ、私が高校生だった頃。

私と同い年位の女性のような、少女のような彼女が描かれた表紙に心奪われた。青の深くて、澄んだ色と『潜熱』という言葉の対比が、清廉な彼女の中に潜む熱を想起させる。

開けば、夏の茹だる蒸し暑さの中、熱が一気に冷えていくような、カタギではない彼が現れた。

彼の真黒な目とシワのないスーツに、骨ばった手とタバコは、心を奪うには十分だった。


あれから数年経ち、私は彼女たちと同じ「子供」と「大人」の壁にぶつかった。

子供が思う大人の妖しさにも惹かれなくなり、あの時読みたかったあの本に惹かれるのか、不安と興味で手を伸ばした。

守られることと愛されることと、その幸せを知りながらも止められない熱がある。少女として育てられ、美しいからこそ、恵まれたからこそ得られた特権ゆえに着火する熱。

この物語は美しいから、彼と彼女だから火が点き、火が消えない。

けれども、大半は殻を破りたいという深層心理から大人に恋をして、熱が冷めていく。現実は、それくらいマトモで、それでいいと思っている。

そう思う今の私だからこそ、彼女と彼の物語は、読み手の私の人生に介入してくるものとしてではない美しさがある。

憧れでもなく、共感でもなく、そのどちらの対義となる感情でもない。

ただ憧れない彼らに惹かれ、美しいと感じることができたこの作品を好きだと思った。

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