見出し画像

読書感想 群像新人文学賞受賞作 豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』

こんばんは。

第67回群像新人文学賞を受賞、豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』、素晴らしい本当に。
めちゃくちゃ読んでほしいです。芥川賞とると思うので。少なくとも候補は間違いない。

以下紹介および感想。
戦時から現代までの沖縄のさまざまな人々の語りの交差から、沖縄の歴史のかたちと現在のすがたを描き出した群像劇。

日本の歴史のなかで周辺として位置付けられ、同化、分離、復帰を経て、つねに引き裂かれながら形作られてきた沖縄の自己像を、ベンヤミンの歴史の天使に重ね、〈語り〉という〈断片〉の重なりから浮かび上がらせている。

作中には魂込めという沖縄の伝統的な民間療法が登場するが、一人称の口語的な語りが口寄せのようにひとつひとつの生の経験を眼前させている。その手つきにはたしかに霊媒的なものを感じる。で、そこにクレーやベンヤミン、谷川俊太郎を援用し、さまざまな次元でのモンタージュから「天使」は描き出される
複数のイメージが重なり合う物語の形式そのものが、つねにイメージのせめぎ合いの場となってきた沖縄の姿を読者へと提示する。
「読むことをとおしてあたらしい魂を宿らせる、そんな小説でありたい」と著者は述べているが、本当にそんな作品だったと思う。

左はベンヤミンが歴史哲学テーゼにおいて着想を得たクレーの《新しい天使》。右は引用された谷川俊太郎の詩のタイトルにもなっている『忘れっぽい天使』。
本作の天使のイメージは、つねに複数の重なりのなかに立ち現れる。


……自分の出身は東北なのだけれど、もともと関心があって大城立裕やら山之口貘あたりには触れていて、沖縄をめぐる表象や語りというテーマに関してはしばしば考えてきた。
そこには当事者性/他者性という問題も付き纏いなかなか難しいのだが、それでもまだこれから語られるべきことが沢山あるのだろうな、と思ってきた。

なのではじめてこれを読んだときは、圧倒された、、。その後、ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』を見返した。元々すごく好きな作品の一つなのだが、本作は「オキナワ・天使の詩」と言っていいだろう。
作品として重なるところも多く、またそれに並ぶ名作だということです。勝手にダサい表現をしちゃってすみません。

いま一番、自分がみんなに読んでほしい小説。
群像新人文学賞とってるし、来月には単行本が出版されるし、きっと芥川賞も受賞するとわたしは信じている(候補は確実だろうと思う)ので、たくさんみんなが読んでくれると思うのだけど!

豊永さんは卒論で大江健三郎を扱っているみたいだけど、自分はその辺あまり詳しくないのでより知見を深めていきたいところですね。

もう日付が変わってしまうので今日はこの辺で。おやすみなさい。

2024.6.13追記
芥川賞候補入らなかった……しょんぼり……

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?