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短編連作小説『透目町の日常』まとめ

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短編連作シリーズ『透目町の日常』をまとめました。基本的には一話完結なので、気になった作品からご覧いただければ幸いです。
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2023年11月の記事一覧

【短編小説】突如現れた正体不明の女性と同居することになった「私」の話

『名無しの名無花さん』  ある月曜日の朝、リビングで知らない人が家族と朝食を食べていた。  両親はとっくに食事を済ませ、母は早々に仕事へ行く準備を、父は家族全員分の弁当の用意をしていて。それを横目に、兄はテレビを観ながらトーストに齧りついている。  毎日代わり映えのない光景に、しかし今日は、異物が一人。  その知らない人は、兄の正面の席に座り、同じように朝食を食べていたのである。  見た感じ、二十代前半ほどの女性だ。胸元まで真っ直ぐに伸びる黒髪は、どんなヘアケアをしているのか

【短編小説】友達(猫)を殺した犯人を捕まえる為に友達(人間)と協力して張り込みをする「私」の話

『はんぶんこの二乗と抱擁』  友達が二人、公園で殺された。  いや、この表現は些か正確性に欠くか。事実に即して著すのであれば、「友達の地域猫が二匹、公園で殺された」である。  私は子どもの頃から、猫と仲が良かった。  それは一般的に動物に好かれている状態というものではなく、本当の本当に、猫に特化していると言って良い。母さんが言うには、赤ちゃんの頃に公園デビューしたその日に、それはもうすごい数の地域猫が寄ってきたそうだ。  さらに、私には猫の話す言葉がわかるということもあり、猫

【短編小説】葬式のときに稀に現れる『沙汰袈裟さん』に遭遇した「私」の話

『沙汰袈裟さん』  十月某日、私は義母の葬儀に参列する為、妻と共に透目町を訪れていた。  妻である詠未の実家がある透目町は、普段私達が暮らしている場所からは、飛行機や新幹線を使わなければならないほど遠方にあり、盆と正月に帰省できれば良いほうだった。  詠未の地元は、とても穏やかな空気が流れているように感じる。今回は、平時であれば帰省しない秋口ということもあって、余計にそう思うのかもしれない。  まるで、全て赦されていくような。  或いは、全て飲み込んでいくような。  私の乏し