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短編連作小説『透目町の日常』まとめ

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短編連作シリーズ『透目町の日常』をまとめました。基本的には一話完結なので、気になった作品からご覧いただければ幸いです。
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2023年7月の記事一覧

【短編小説】投稿動画に幽霊が映っていたのでお祓いしてもらいに来た「私」の話

『ゴースト・バイアス・エクソシスム』  私の趣味は、動画投稿である。  誰も行かないような山や海へ遠出する様子を動画に収め、素人なりに編集をして動画投稿サイトへ投稿する。閲覧数は多くない。三桁台ほども再生されれば小躍りしたいくらいだ。所謂、底辺動画投稿者である。  そんな私の投稿動画が、ある日突然、急激に再生数を伸ばし始めた。同時に、動画へのコメントも次々に書き込まれていく。なにがなんだかわからないなりに、どこかの誰かによって動画が紹介されてバズったのだろうか、なんて呑気に

【短編小説】死神と入れ替わってしまった「私」の話

※この作品は、短編連作『透目町の日常』シリーズの番外編です。  町の外で起きたできごとが理由で、透目町の一員となる「私」の話でもあります。  『透目町の日常』シリーズ本編には大きく影響しない物語ですので、このシリーズ作品が気に入った方に読んでいただければ幸いです。 『死神には白い彼岸花で作った花束を』

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【短編小説】不老不死の「私」と不思議な力を持つ親友の話

『春夏秋冬の庭』  『死にたい』と思うのは、脳の誤作動であるらしい。  何年か前、ふと思い立って自殺方法をインターネットで調べているうち、そんな記事を見かけた。それは鬱病云々に関する内容だったのだが、そこにあったのが、誤作動という文言である。とはいえ、所詮はインターネット上で見かけた情報だ。真偽のほどは不明である。  だが仮に、この論が正しいとして。  私の場合、脳の前に身体が誤作動を起こしていることは間違いない。  身体の誤作動。  それは、噛み砕いて言ってしまえば、不老不

【短編小説】夜の公園で少年と猫に出会う「私」の話

『停滞する紫煙』  子どもの頃、時計の針が止まっていれば、その時間は永遠だと思っていた。  具体的には、よく遊び場にしていた公園の時計。  何年もの間修理されなかったそれは、ずっと四時四十五分を指し示していた。私はそれを言い訳に、頻繁に門限を破って親から怒られていたのを、今でも強く覚えている。  家に帰りたくなかったわけではない。  宿題をしたくなかったわけでもない。  当時は上手く言語化できなかったが、大人になった今なら、一言で説明がつく。  小学生の私は、夕暮れどきが好き

【短編小説】「私」の弟が猫に好かれている話

『手紙』  弟は近所の野良猫たちから好かれている。  とても。非常に。すごく。  好かれている。  或いは、愛されている。  彼は特段、野良猫に餌を与えているわけではない。むしろ、それは無責任な行為だからと、頑として拒否しているくらいだ。  それでも弟は、野良猫たちから好かれている。  弟が登校する時間になると、猫たちは各々思い思いの場所から姿を現して彼を見送り。  弟が下校する時間になると、朝と同じように姿を現して彼を出迎えるのだ。  その際、猫たちは必ず弟に声をかけている