ウイスキーに水を加えると香りが立つ理由
ウイスキーの香りに関する論文の紹介です。
2017年に発表された論文ですが
多くの人が紹介している反面、
詳細な内容を紹介したものは少ない印象なので、
元論文の図表に触れながら読み解いてみます。
なお、記載している図は、
左側が元の論文から抜き出したもの、
右側の説明文(黄色)は、図表の説明を訳したものになります。
(私の解釈が含まれています)
内容理解の手助けになればと思います。
論文ではグアイアコールという成分に着目しています。
ウイスキーでよくみかける香りの主成分の1つになります。
ピート香と呼ばれる煙っぽい香りです。
まず、エタノールと水を混合した時の、エタノールと水の分布の確認です。
そもそもエタノールと水は均一に混じり合わず、計算科学上では界面(エタノールが空気に接する表面付近)に多く存在するとのこと。
(なお、ウイスキーの度数は通常40~45%ですので、この27%というのが、おおよそ1:1で水を加えた時の濃度に相当します)
ここが論文で一番の衝撃でした。
私は今まで、「エタノール → 低分子アルコール → 強い親水 → 水と完全に均一に混ざる」という理解だったのですが、そのイメージが完全に崩れました… 自由に溶解はするものの、溶液内の分布には差が生まれる、といったところでしょうか。
次に、水、エタノール、グアイアコールの分布についてのグラフです。
エタノール濃度が45%以下のとき、エタノールが界面に偏在していることが分かります。グラフの形がツノのようになっていますね。また、グアイアコールも同様に、濃度45%以下で表面付近に集まっています。
グアイアルコールはエタノールと仲がいいみたいですね。エタノールの分布に合わせて、小さなツノのような分布をしているグアイアコール、ちょっとかわいいです。
Figure 4ですが、私は意味が解釈しきれませんでした…
本文中では「エタノールが界面に集まるのでバルク(界面から離れた部分)の密度が理論値よりも高くなる」とあるのですが、界面に集まるならバルク密度はむしろ低くなるのでは?と思いました。どなたか教えていただけると助かります。
水とエタノールの分布についての話です。Fig. 3で観察した、エタノールの界面偏在を他の数値で確認しています。エタノールは濃度が下がると、どんどん界面へ偏在していくことが分かります。
ここでグアイアコールの話に戻ります。Fig.3ではエタノールと仲がいいと話していたグアイアコールですが、45%から27%に希釈すると、グアイアコールにくっついていたエタノールが乖離します。元の論文では、この状態を"グアイアコールが揮発しやすい状態"と表現していました。
また、ここでは27, 45%の濃度の図だけを切り取りましたが、元論文では他の濃度でもエタノール分子が増加する様子が図で示されています。よければそちらもどうぞ。
Fig. 6の話を定量的に表現したグラフです。
45%から27%に希釈すると、グアイアコールの周りにいたエタノール分子が水分子に取って代わられることが分かります。さらに、水分子の増加よりもエタノールの減少の方が大きいことから、グアイアコールの周囲から分子が少なくなっているようです。
Fig. 3の話と合わせて考えると、水を加えることでグアイアコールはエタノールと一緒に界面に移動するものの、Fig. 6, 7から分かるようにグアイアコールの周囲にエタノールはいなくるため、グアイアコールが揮発しやすい状態になった、ということになります。
不思議ですねー プロセスの詳細やその理由が気になるところです。
紹介は以上です。
他の香り成分や、実際の揮発プロセスが気になるところではありますが、
こういったモデルで現象が解明されていくのはワクワクしますね。
気になった方はぜひ元論文も見てみてください。無料です!
結論:なぜウイスキーに水を加えると香りが立つのか?
水を加えることで、界面(空気に触れる液表面)にグアイアコールが集まり、その後、周囲のエタノールが乖離することで、グアイアコールの揮発が起こりやすくなるため。