見出し画像

いつもの新しい景色を求めて。〜四国の道 (千羽海崖を臨む道) 〜

四国で有名なロングトレイルといえば、お遍路さんなんかが有名どころかと思います。

四国と聞いて、関東に住んでる友人なんかは「何があるの?」とよく聞いてくるのですが、住んでみると意外にもその自然環境の良さと多様さに驚かされることが多くあり、サーフィンをはじめとしたマリンスポーツはもちろん、登山などの山系の遊び場もスポットがたくさん。

トレッキングに関していえば、お遍路などの有名どころ以外に隠れた絶景ルートがたくさんあるのですが、今日は前々から気になっていた「四国の道」の一部(千羽海崖を臨む道)を歩いてきました。

四国の道とは

四国をぐるっと一周する形でのびる遊歩道のことで、歴史や文化の史跡をたどる国土交通省が定めるルート(全長約1,300km)と、自然を知り楽しむために環境省が整備を進めている長距離自然歩道の一つ「四国自然歩道」(全長約1,600km)からなります。

長距離自然歩道は全国で整備が進められていて、北は北海道から南は九州まで全国に10(完成8、整備中2)のルートがあり、その中の四国自然歩道が「四国のみち」と呼ばれています。わたしが住む徳島県内には全長約1,600kmのうち320kmが通っているそう。

徳島県内では県内を通る約320kmの道を24つに区切り、それぞれその区間の自然的な特徴がわかる名前が付けられています。

今日わたしが歩いたのは、四国の道の中で日和佐駅から千羽海崖を通って山河内駅まで抜ける全長12.2kmの「千羽海崖を臨む道」。今月26日に行われる千羽海崖トレイルランニングレース2020のコースにもなっています。

スタート地点もゴール地点も町内でよく知った場所だったし、先日たまたま観た映画「ロングトレイル!」に触発されて、久しぶりに歩いてみることに。実際に歩いてみるとアップダウンが激しく、なかなかに歩きがいのある道でしたが、景色も綺麗でとてもおすすめしたい場所の一つになりました。


山河内駅から山道入り口まで

本来は日和佐駅からがスタートなのですが、隣駅である山河内駅まで汽車で行ってから、逆向きに歩いて帰ってくる方が効率がいいね、ということになり山河内駅からスタートすることにしました。鉄道の本数が少ないので、山河内からの帰りがちょっと心配だったっていうのも田舎あるあるかな。

始発は7時31分発。単線を走る一両編成のディーゼル車。無人の改札を抜けてすでにホームにとまっていたいた汽車に乗り込み、路線バスのように整理券をとって一番前の席に着きます。汽車は田園風景の中を走り、いくつものトンネルを抜けて、約5分後に駅舎のない小さなホームだけの山河内駅へ到着しました。

山間の小さな集落には太陽の光はまだ届いてなくて、少し肌寒い。向かいの山が太陽に照らされてオレンジに変わっていくのをみながら、刈り取られて裸になった田んぼの間を遊歩道の入り口へむけて歩き出しました。あたりはとっても静かで聞こえるのは沢を流れる水の音と鳥の声だけ。所々に建つ家はまだ家主が起きていないのか一切動きはなくて、朝靄の奥で小鳥が畑をついばんでいるのが見えました。

「同じ町内なのに全然違う場所みたいだね」

一緒に歩く友人がそう言い、確かにとわたしも思う。知っているはずの場所でも全然知らない場所にきたみたいな感覚になることってよくある。時間が違うから、季節が違うから、わたし自身が違うから。その時その時で見える景色を大切にして、できたら覚えておきたいなってこんな時いつも思います。

・・・

ちょっとした観光名所でもある大量の金魚が飼育されている貯水池を通り、山間を進んでいきます。右手には沢があって、流れる水から湯気が微かに上がっていました。笹の茂みを右手にみながら、駅から30分ほどで「四国の道」と書かれた道標の建つ遊歩道の入り口に到着です。太陽はまだまだ山の向こうから顔を出してくれてはいませんでした。


千羽休憩所へ

遊歩道へ入ってからは最初の休憩ポイントである千羽休憩所を目指します。千羽休憩所へはおよそ4kmとちょっと長めでかつ上りが続くようだけれど、まだ朝の一発目なのでまだまだ気力も体力も余裕がありました。

遊歩道の地面はしっかり整備されていて歩きやすく、何よりもやっと出てきた太陽に照らされて神々しく輝く大きな杉並木が本当に美しく、歩いていてとても楽しかったです。高く堂々と立つ杉、その隙間から差し込む白い光の筋、住んだ空気、どこか別の世界の神殿にいるみたいに奇妙なくらい綺麗な景色がわたしたちを取り囲んでくれます。

時間はまだ8時半くらい。早起きして良かったなって、この景色を見られただけで三文以上の得があったなって思えるから、やっぱり自然の美しさって偉大だなって思います。

しばらく杉の林が続いた後に、千羽海崖名物(らしい)長く続く急斜面の階段に到着。千羽休憩所は千羽ヶ丘の上にあるので、そこまでひたすら登っていきます。登れども、登れども、続く階段。次こそラストかと思って力を振り絞るも何回も裏切られ、ただただ目の前の一段一段に集中することで気を紛らわせながら登っていきました。

「山も人生も同じね。上りがあって下りがある。上りや下りがあるから、平坦を歩く幸せも感じられるんだね」

友人とそんな会話をしながら。

太陽はすっかり上がっていて、マウンテンパーカーの中で汗がじんわり。相変わらず景色は綺麗で、上っていくうちにウバメガシなどの木に変わっていた林の奥からキラキラ光る海が見えるようになりました。

日和佐方面からは26日のレースに出る選手たちなのか、トレランのトレーニングをしている一行とよくすれ違うよになり、その健脚ぶりに圧倒されながらもあくまでマイペースで進んで行きました。

ちょっとそろそろ着いてくれないと困る・・・と思った頃にやっと千羽休憩所へ到着。看板には山河内駅から約6km、日和佐城へも約6kmと書いてあってやっと半分進んだらしいことがわかりました。

時刻は10時。遊歩道に入ってから1時間半で、まずまずのペースではないでしょうか。休憩所からは林に遮られていて見えなかった太平洋を見渡すことができ、気持ち的にもちょっとHPを回復することができました。


通り岩休憩所から千羽富士へ

千羽休憩所から2km先の通り岩休憩所までは細かいアップダウンの連続で、登っては降り、降りてはまた登っての繰り返しでした。いつまでたっても平坦で楽な道にならないから、

「人生も、もしかしたらこの道と一緒で辛いことの方がデフォルトなのかもしれない。だとしたら、いつも辛いことを受け入れてしまって、たまに幸せが来た時にそれが来たってことをラッキーだって思えればいいんじゃないか」

なんて、なんの答えにもなっていない人生哲学のようなものを考えはじめてしまうくらいでした。(でもそれって結構、真理じゃないかなとは思ってる実は)

通り岩休憩所からも太平洋が一望でき、海にそりたつ壁のような千羽海崖が大迫力で迫って見えました。海には漁船が何隻も出ていて、遠くの島々もくっきり。いつもの見慣れたはずの海だけど、やっぱりちょっと違って見えるから不思議です。

通り岩休憩所をすぎると今度は急激な下りに。日和佐方面から来た人たちにとっては相当しんどい上りなんじゃないかなと思います。一段一段がわたしの腰の高さくらいあるんじゃないかと思うくらい高いから、降る方のわたしたちも大変。すぐに膝が痛くなってしまいそうでした。

そんな長い下りを終えて、また少しアップダウンを繰り返した後に千羽富士に到着です。千羽富士は標高128mほどの小高いピークの一つで、富士山のように美しいことからそのように呼ばれているそう。遊歩道からはあまりその美しさを感じられませんでしたが、ゴールが近いと言うことがわかったことでテンションは上がりました。

ここら辺になると日和佐のまち並みも山の間から見えるようになり、まちに帰り着いたらお昼ご飯をどうするか、何を食べるか、わたしたちの会話はそんなことばかりに。いつだって花より団子。景色よりも昼ごはん、色気よりも食い気なのです。


日和佐城、そして日和佐のまちへ

千羽富士をすぎるとあとはほぼ下りや平坦な道が続きました。時折見えるまちがだいぶ近づいていることに勇気づけられながら、こちらもだいぶ間近に迫ってきた海を右手に見て、最後の区間を進んで行きます。

もう1年以上も住み、毎日見ているはずなのに、四国の道から見るまちの景色はとっても新鮮で、改めて綺麗だなって感じました。湾の向こうにはいつも干物をくれる漁師さんが住む集落があって、真正面には漁協といつもボーッと海を眺めにいく防波堤があって、左奥には薬王寺の塔が見えて。

海はいつも通り青いのに、空はいつも通り高いのに、まちはいつも通りの様子なのに、なんか新しいものみたいに見える。それがとても面白くて、引き続き景色がとても美しいから、お腹が空いていることも喉が乾いていることもちょっと忘れて、友人と「綺麗だね」って。

離れてみて見えること、角度を変えてみてはじめて見えるもの、世の中にはたくさんあるから、なんか全てがそれはそれででいいんだなって思える。

改めて見つめた住むまちの景色に、そんなことを感じたのでした。


新しい景色を見に、歩きに行こう。

日和佐城に着いたのが12:30で、ちょうど山河内駅から歩き始めて5時間でした。写真を撮ったり、休憩したりしながらのわりにはいいペースで歩けたのではないかなと思います。まちに降りてきたわたしたちはお腹ペコペコで、前もって決めていた韓国料理屋さんに駆け込むようにして入り、それはそれは美味しい石焼ラーメンをお腹いっぱいいただきました。

14時すぎに帰宅し、シャワーを浴びてちょっと休憩した後にこれを書いています。身体は疲れているし、すでに脚には筋肉痛がきているけれど、心はとっても元気で、早く次の“みち”を歩きに行きたくてしょうがないくらい。年内に徳島県内の四国の道を踏破したいねって友人と計画しているのですが、達成できたらいいな。

身体を動かすと心も元気になるとはよく言ったもんですが、こんなにも活動的な気分になったのは久しぶりかもしれない。12km歩いたこと、楽しく歩ききったこと、綺麗な景色が見られたこと、まちの違う一面が見られたこと、今日の全てが、一つ一つが、わたしの栄養となってくれたような気がします。

今日みたいな景色を一つでも多く見たいから、
もっともっとたくさん、もっともっと遠くへ
歩いて行こうと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?