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【短編小説】第一話 駐輪場【ヒトコワ】

私は、ファミリー向けの賃貸マンションに妹と住んでいる。
5階建てで30戸ぐらいだろうか。

最寄駅から少し離れてはいるものの、築浅だし間取りが2LDKで面積も十分。
2人で家賃を出し合えば、とても満足できる物件だ。

悩みがあるとすれば、駐輪場が狭いこと。
とにかく朝が地獄だ。
出勤や通学、子供の送迎、住人がこれでもかと集まる。
自分の自転車を出すのに10分以上かかることもある。それぐらい待つのだ。

住居者のほとんどは駐輪代を払ってレーン場所の登録後、建物内の2段ある差し込み式ラックスペースを使う。外の駐車場の脇にもレーンがないフリースペースがあるが、バイクも兼用で8台ほどしか停められない為、いつも埋まっている。

「お姉ちゃん、今日外に停められたよ」

日曜の夕方、買い物帰りの妹が報告してきた。

「でかした!!明日楽だわ」

私たちは自転車1台を共有している。
妹は、ウェブ制作会社に勤めていて、最近では在宅勤務がほとんど。
もともとインドアの為、外にあまり出ない。
都内中学校教員の私が、自転車をほとんど使うことになる。

「隣の自転車204号室だっけ?ハンドル引っかかってて出しづらかったよ」

「前にチャイルドシート付いた自転車でしょ!?もともと狭いからしょうがないんだけどさ、幅取り過ぎだよね。まぁ、問題は駐輪場の設計ですけど」

「外は屋根が小さいから、雨が降ったら結構濡れちゃうけど、拭けばいいしね」

「そうそう。助かります。ありがとう」



月曜日は、生徒も憂鬱というけれど、先生も同様ですよと言いたい。
相変わらず朝のこの時間は人が多い。
外に停めてくれた妹に感謝である。

フリースペースの端に私たちの自転車があった。

(ここっていつもカッコいいクロスバイクが止まってなかったっけ?なんかすみませんね)

朝のストレスが軽減されて、いつもよりスピードを出して駅まで向かった。


帰宅時間は19時を回っていた。
フリースペースは既にいっぱいだった。

仕方なくいつもの場所に停める為、建物内へ入ろうとすると、10代に見えるいかにもギャル風な女性と年長くらいの男の子がエントランスへ入っていくところだった。

「こんばんは」

相手は私に見向きもしなかった。

自分の自転車を停めようとすると、隣の自転車のチャイルドシートが邪魔で奥まで差し込むことが出来ない。
隣の自転車を手で傾けながら自分の自転車を押し込んだ。すると、しっかりロックされていなかったのか、隣の自転車が向こう側へ倒れてしまった。

慌てて起こそうとするが、電動自転車はかなり重い。

エントランス側の扉が開いた。

「大丈夫ですか?」

40代くらいの男性だった。

有難いことに起こしてくれた。

「ありがとうございます。この電動自転車、大きくていつも出し入れがし辛いんです。助かりました」

私は急いでカゴから荷物を引き上げてエントランスへ入った。

聞き間違いではなかった。


エントランスを抜ける前に振り返ると、先程の男性がまだこちらを見ていた。


「あんたか。毎回うちの自転車を倒してそのままにしていく奴は」


//わたなべさん、写真を使わせて頂きました。//


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