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”エンジェル・シェア”~天使の分け前~

三十歳も超えると人は、自然と大人になるものだと思っていました。
ちゃんと自分の頭で考えて、コントロールして、潔く諦めるときには手放して、状況によって臨機応変に判断を下し、時には自制も譲歩も出来るようになるものだと。
普通に生きていれば、自然とそうなるのが人間という生き物だと思っていました。
そもそもこういう考えこそがもう幼い気もしますが。

はぁ……。
いつまで経っても成長しないな、と思うことが多い今日この頃。
伸びしろは、一体どこまで伸び続けるのでしょうか。

大人の定義は人それぞれあるとして、私はどんな人をカッコいいと思うんだろうと考えていつも思うのが、自分軸で生きている人です。
何か行動をとるときに、人からどう思われるだろうとか何を言われるかなんかどうでも良くて、自分の直感と感性を信じて突き進む人。
他人になんと言われようと、ブレない信念を持って生きる人。
そんな人になりたいと思いつつ、いつまで経っても他人軸で生きているような気がして私は、そろそろ自分をしっかりと持ち直さないとやばいぞと感じ焦っています。

環境のせい
障碍のせい
時代のせい
社会のせい
そんな風に流されていては、自分の人生に責任を持って生きているとは言えません。


ところでこないだ、酔っぱらって顔面(顎)からアスファルトに撃沈しました。(ところでの使い方合ってる?)
深夜の大阪。
膝でワンバン顎で着地。血祭りです。
そのときはアドレナリンも出るし酔っぱらってるし、ほとんど痛みを感じなかったのですが、その分の代償は翌朝払いました。
そう言えば地面をあんなに近くに見たのはいつぶりだろう。都会の冷たさ硬さを掌で確かめたのも。
地面にダイブしたとき、呑気に5秒くらいフリーズして(一緒にいた人に担ぎ起こしてもらった)、跳び箱で失敗して顔面から運動場に突撃したあの頃の自分からなーんにも変わらんなぁ、と。
いや、お酒に酔ってないだけ、今の私よりもちゃんとしてる。
なんか、退化してる……?

新天地、北海道

その日飲んだのは、ハイボールでした。
というか私は、お酒を飲み始めた二十歳の頃から基本的にワインかハイボールしか飲みません。
たまにジンとかも飲むけれど。
ぶどうの品種に詳しいわけでも、樽の香りにものすごいこだわりがあるわけでもなく、憧れの偉人や先輩方が好んで飲んでいた、という至極単純な動機です。

飲んでいるつもりで、高確率で飲まれるハメになるお酒。
あんた方は一体、どういうつもりで生まれてきたのですか。
するとちょうどそんなとき、北海道の余市町に行く機会に恵まれました。
実は私、今年の春から大阪のとある民泊運営代行会社に運営スタッフとして携っています。
運営業務の他にライター業も任せてもらい、全くの未経験で慣れないことばかりだけれど、新境地にわくわくドキドキしながら刺激的な経験で、楽しくやってます。
そして夏限定の事業として、北海道は余市町登にグランピング場を運営することが決まり、なんとそこの現地スタッフとして行かせてもらうことに。

余市と言えば、言わずと知れた「お酒の町」。
ワイン用ぶどう農園としての歴史は昭和六十年代に遡り、道内で初めて「北のフルーツ王国よいちワイン特区」として認定されました。
もちろんウィスキーなしでは語れません。
なんてったってアイドル、竹鶴政孝が本格ウィスキーをつくる場所に選び、余市蒸留所を持つ、ニッカウヰスキー発祥の地でもあるのだから。

グランピングどころか、ほとんどアウトドア経験のない私ですが、お酒の神様が私を余市に呼び寄せたに違いありません。
「いくつになっても酒の何たるかを心得ないお前。味も分かってないくせに、一丁前に酔い潰れるでないバカモン!」
校長室に呼び出される生徒みたいに、竹鶴さんの魂に叱咤されるようでもあります。

期間はまだはっきりとは決まってませんが先日、大変お世話になっている社長に連れられ、設営を兼ねた現地調査に行ってきました。
お恥ずかしながら私、初の北海道でした。
でっかかった!
子どもみたいな感想しか言えなくなるくらい新鮮で、美味しくて、刺激的な体験だったのですが、そのことについてはまた改めて書こうと思います。
(綺麗なお尻に吸い寄せられて、すすきののバニーちゃんbarにも行った)

大麦から始まる物語

「竹鶴とリタの夢-余市とニッカウヰスキー創業物語」 (2014 双葉社 千石涼太郎)

急いで読みました。
とても興味深く、面白いことがたくさん書いてありました。
まず、お前はウィスキーの何を知ってたんや、と過去の自分に言いたいです。
その工程はすごく神秘的で、技術者や職人たちが研究に研究を重ね、試行錯誤し、やっと、やっと出来上がる琥珀色のお酒。
本場スコットランドのウィスキーを初めて日本で作ろうとした人の信念と希望、失敗と挫折。
時代は第二次世界大戦真っ只中。
今の時代からは考えられない障壁が彼らの前に立ちはだかっていて、それでも絶対に作るんだという揺るがない軸を持ち続けた熱い人たちの物語。
家族の猛反対を押し切り、遠く離れたイギリスから竹鶴の夢を一緒に叶えるべく、単身日本に渡ったリタの覚悟。

時代を経て今日、私たちが当たり前のように飲んでいるジャパニーズウィスキーは、瓶の中に納まりきらない程の熱い魂と、涙と、夢と希望が詰まっているんだね。
しみじみと感じます。

天使の分け前

ウィスキーの製造過程で私が最も衝撃を受けたのが、貯蔵庫で熟成される過程で揮発する”エンジェル・シェア”(天使の分け前)という現象です。
この工程では、科学的に解明されていない変化が起こるそうで、毎年2~3%が蒸発するのだとか。

揮発したウィスキーを天使が飲む、そのかわりに天使がウィスキーをより美味しく仕上げてくれる……。いつのころからか、ウィスキーの世界ではこんなロマンティックな話が産まれたのだ。

竹鶴とリタの夢-余市とニッカウヰスキー創業物語  (2014 双葉社 千石涼太郎)

なんとも神秘的というか、ほんと……、ロマンティックが止まらない。
強い想いが人知を超越した何かに伝わり、噓みたいな旨さに変わる。
それってもう、ほとんど奇跡やん。

熟成期間

数年間、数十年間、じっくりと熟成されてもっともっと美味しくなるウィスキー。
天使と悦びを分かち合いながら、いつか誰かに出会う日を夢見て樽の中。

もしかしたら人間にも熟成期間はあって、暗くて不安も感じるけれど、気づいたら豊かな人間になってる。
その過程で手放すものはあっても、それも美味しくなる秘訣。
なんてこともあるかも知れませんね。

お酒に、自分に酔い過ぎない。
けれど、夢と信念は持ち続けていたいと思います。
挫折もするだろうし、諦めたくもなるけれど、いつでも軸を持って立ち上がり、誰かが差し伸べてくれる手に感謝して素直に、握り返せるように。

週末です。ニッカ飲も。


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