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探索チームに「ロジカルシンカー」の居場所はあるか

 既存事業でこそ「探索」が必要であるという話を書いた。

 この話を踏まえて、「探索チーム」について、もう少し語りたい。既存プロダクト、事業の文脈で、あらためて顧客の状況やインサイトを集めにいく、その際のチームのフォーメーションについてだ。

 まず、さらに前提を加えるが、この探索活動のチームの動き方には「アジャイル」が期待される。つまり、スクラムのようなプロセスを適用することになる。探索になぜアジャイルが必要かという話は、いくつかの本に何度も書いているので割愛する。

 「スクラムのような」とあいまいに書いているのは意図的である。スクラムそのものを適用することは、たいていの場合かなりのハードルになる。伝統的な組織においては、ほぼ100%組織のFrom(これまでのあり方やケイパビリティ)と合っていない。合っていないことを嘆く必要も、絶望する必要もない。そんなことは自明なので、どうギャップを乗り越えるかだけだ(だがそれが「容易ではない」ということに変わりあるわけでもない)。こちらも、詳しくは本をあたっていただくとして…

 本題は「探索チーム」のフォーメーションだ。どういう役割が必要になるのか。ここでいう探索は、ソフトウェア開発ではない。本格的な開発の出番は探索の後になる。繰り返しだがこの探索チームでの主眼は「顧客の探索」であり、主な活動は仮説検証・調査となる。

 役割のイメージをあげてみよう。

探索チーム内の役割

 チームの動き方に「スクラム(のような)」を適用していることが多いため、その語彙をあわせつつ、チューニングしてみたい。

 まず、わかりやすいところで、「プロダクトオーナー」がいる。ただし、この探索活動においては、「既存プロダクト」の意識が強調されるとかえって、主旨と異なってしまう場合がある。「顧客のインサイトを学ぶ」という方針からするとバイアスになりやすい。「結局は、既存のプロダクトをもっと売れるようにしたい」という思いが強すぎると、探索のミスリードになる。ゆえに、プロダクトオーナーというワードを避けるのも一案だ。テーマリードとかね。ドメインや探索するテーマに詳しいメンバーに努めてもらう。

 次に、「スクラムマスター」。これも語彙としては微妙になることがある。「スクラム」の実践が主眼にない場合に、この言葉が強調されるのはやや違和感が感じられる。しかし、間違いなく必要な役割として「チームのファシリテーター」が挙げられる。探索を行うにあたって、「チームとして動く」ということが不慣れな事も珍しくなく、「機能するチーム」を目指すにあたっては不可欠になる。チームビルディング、日々のチームの同期、効果的かつ効率的な対話、チームとしての意思決定など、場や仕組みづくりをどのように行うか。仕事の進め方自体を再デザインする役割と言っても大げさではない。

 そして、「デザインシンカー」。顧客のインサイトに触れていくために、どのようなプロセス、ワークショップを構築するか。また得られたインサイトの分析にもチームのためのワークデザインが必要になる。「既存のプロダクトを売る」ということに最適化してきた組織では、このあたりのケイパビリティが圧倒的に不足していることがほとんだ。ゆえに、デザインシンクを実践的にリードできる役割が不可欠になる。デザインシンカーに限ったことではないが、組織内に不足するケイパビリティは外部から取り入れることになる(その際、ドメインに詳しいデザインシンカーであることが理想的だ)。

 最後に、「ロジカルシンカー」。この役割がもっとも、もやみを感じるところだと思う。役割は、ドメイン、プロダクト側寄りに立って、ロジカルにプロセスやアウトプットを整備、分析する役割を担う。ロジカルシンクに必要なフレームの引き出しを豊富に持っており、チームが検討する内容に応じて提供、提案し、その使い分けをリードする。
 こうして書くといわゆるコンサルタントのイメージを持つかもしれない。ほぼ当たっている。実際のところ組織によっては「考える、整理するための枠組み」およびそれを使いこなす力が衰え(もしくはリソースが足りず)、それら自体をアウトソースする場合が少なくない。デジタルトランスフォーメーションと呼ばれるプロジェクトでは、ほぼ間違いなくコンサルタントが入っている。

 はっきり言って、探索の活動に、既存のフレームやモデルの型にはめることを至上としたり、緻密な計画を立てきって仕事を進めていくスタンスは全く合わない。ゆえに、これまでのイメージのコンサルタントを探索チームに招き入れることには気が進まない。

 一方で、ロジカルシンク自体は情報の整理、チームの思考の収束、視点の抜けや漏れを防ぐために必要である。ふわっと顧客の声をひたすらに集めていけば何かわかるだろう、というのはオプティミズムに過ぎ、その調子で探索が続けていくと「結果何が分かったのか? 事業の次にどうつながるのか?」に答えられず、頓挫する未来が見えている。探索にデザインシンカーが欠かせないように、その逆側のケイパビリティを補完するロジカルシンカーもまた機能としては要るのだ。

 この役割もまた、先述のとおり組織内で確保しがたい場合が多く、外から取り入れることになる。その際、ロジカルシンカーに期待するのは、「チームの一員として動く」ことである
 "これまでのイメージのコンサルタント"が探索に適さないのは、チームの思考や意志を先回りしすぎる上に、ロジカルシンクでのみ構築する世界への誘導が強すぎるためである。ロジカルシンクでのみ物事を積み上げていこうとすると、どうしても検討内容が「既存のプロダクトや事業への貢献」が先立ち、探索の主眼である「顧客のインサイト」が置き去りになりやすい。

 それにしても、ロジカルシンクやロジカルシンカーという言葉自体のレピュテーションは悪い。ほかの言葉のほうが適しているかと、浮かんだのが「フレーマー」だった。チームに必要なフレームを、その時々に応じて取り出して、提供、提案ができる役割。チームの議論や検討、思考の枠組みを作る。言葉としては、加工材を組み上げる大工という意味あるようだ。チームのロジカルシンカーとして期待するイメージと合っているように思う。


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