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YEN-TOWN

1996年の公開だから、もう軽く四半世紀も前の映画になる。いわずもがなの岩井ワールド。岩井俊二監督の「スワロウテイル」。

バブルはとっくにはじけていて「空白の90年代」のまっただ中(その後、「空白の30年」になると思っていた人はいなかったろうけれど)、すでに「円」という通貨にかつてほどの迫力がなかった時代。だから「円」の強さに、内外から人々が引き寄せられてくるという設定に、ちょっと違和感があったんだけれど、岩井監督が言いたかったことは、そんなことじゃなかったんだと思っている。

主人公は、日本(らしき場所)に渡って来た移民たち。そして、舞台は彼らが「円都(イェン・タウン)」と呼ぶ都市、彼らが暮らすスラム。旧来からの日本人(らしき)人たちは、彼らが、自分たちの国を「円都」と呼ぶのを忌み嫌って、逆に彼らを「円盗(イェンタウン)」と呼んで蔑んだ…
このことは冒頭のナレーションで紹介されるが、つまりは、いまどきな感じでいう、下流でワーキング・プアーな人たちの夢の持ち方と挫折を描いた物語。

(表面上はね)

「円都」は国際色豊かな街だけれど、日本人か、中国人かの別ではなく、貧民に位置するのか、そうではないか、そのことによって、約束されている将来も、だから価値観も違ってくる。下から這い上がっていこうにもその登り方がわからない…だから、また惨い目に遭う…スワロウテイルに描かれているのは、そんな物語であるように思う。

この構造とやつせない思い。滅多に叶えられない「アメリカン・ドリーム」な感じ。

あれから四半世紀、この映画の中では、英語と中国語と日本語が、微妙に混じり合った「円都語」なるものが登場するけれど、ヨコハマ都心では、中学生ぐらいの子が、まさにこういう言語を使っているのに出会ったりする。たぶん池袋や新宿あたりでもそうなのかな。

うちのご近所でも小学生や中学生たちの一群には、肌の色が異なる子どもたちが混じりはじめ、イントネーションにも濁りがない綺麗な日本語を使っている。

これも「円都」かな。

映画では、蔑まれている境遇の者どうしの絆というものが、ぎりぎり残っている状態に設定されていましたが、現実は、そういくのかどうか。これからのこの国が単純に弱肉強食で語り尽くされるようになるのは嫌だなぁ。映画には、心を病む人も出てこなかったけど。

そのことが一番の気がかりだ。


「スワロウテイル」 岩井俊二監督 1996年作品
 
出演 三上博史/Chara/伊藤歩/江口洋介/渡部篤郎/桃井かおり/
山口智子/大塚寧々/ミッキー・カーチス/洞口依子/塩見三省/
小橋賢児 他
撮影 三沢源太郎 音楽 小林武史

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