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少女がいない

この本が実際にベストセラーとなった頃には、たかがタレント本と見向きもしなかった記憶がある。山口百恵さんの自伝本。1980年9月の初版。文庫化されてからでさえ、もう40年近くたっている本だ。僕が、この本を読んだのもしばらくたってからのことだ。

不可思議な読後感がある本だ。

たぶん編集を担当された方が手を入れていらっしゃるんだとは思。でも、この本、いわゆるゴースト・ライターの手に拠るものだとは思えない。妙に細部がリアルだ。だからといって、ホントにこれ、20歳そこそこの女の子が書いたのかよと、そのあたりについても腑に落ちない…故に不可思議な本だなと、そう思っている。

繰り返すけれど、かなり高い確率でご本人がお書きになっているのだとは思う。でも、彼女の語る、ほんの小さな子どもだったときの記憶からして、あまりにも大人びていて、冷静で…悲しさとか、哀れみとか、そういうことを見事に達観されており、その冷静さ故にゾっとしてしまう感情の方が先に立ってしまう。ご主人との恋愛の記述についてもそうだ。

フワフワした感じがどこにもない。「少女」がいない。

男の妄想が勝手な「少女像」をつくりだし、その少女と、彼女の書いた文章に描かれた「10代の女性」の間に隔たりがあるから戸惑っているだけ。そう仮説してみるものの、それでも、ぬぐい去ることができないほどの違和感がある。

(逆にいえば、それこそが、ご本人がお書きになった証拠ともいえるわけだ。編集者の方が主導的だったり、ゴースト・ライターが書いてるんなら、いくらなんでも、もう少しこの本の主人公=山口百恵という人を、確立されている山口百恵像に寄せて書くはずだ)

だからこそ、山口百恵さんという方は、いったいどんな方なのだろうと違和感と興味とがないまぜになったような不思議な感覚が今も消えない。

あの頃、この本をお読みになった方は、この本に描かれている「山口百恵」という人にいったいどのような印象を持ったのだろう。
山口百恵さんがメディアから姿を消してもう40年…今を生きる若いみなさんは、山口百恵さんは歴史上の人物なのかもしれないけれど。

蒼い時 山口百恵 著 集英社 刊(集英社文庫)


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