【記事紹介】“ドイツ人パイロットは中国にただNATO戦術を手渡しただけだったのか?”(Did German Pilots Just Pass NATO’s Tactics to China?, by Franz-Stefan Gady, FP, 07.06.2023)
先日、シュピーゲルの報道で、元ドイツ空軍パイロットが過去10年以上、中国人民解放軍空軍(PLAAF)の訓練に関わっていたことが報じられました。
この例のように、西側諸国軍に所属していたパイロットがPLAAFに手を貸すことのリスクを、IISSのガディ氏が論じています。
ドイツ人パイロット(その他、元英空軍・元米海兵隊のパイロットの例もある)がPLAAFに教えたであろう内容には、
SEAD(敵防空網制圧)任務の計画と実行
NATOドクトリンに沿った統合的航空作戦
といったことが考えられ、そのような情報とそれに基づいた訓練は、PLAAFの戦力向上につながります。そして、それは結果的に、米国の対中抑止力を弱めることにつながります。
それが欧州にとって、どのような結果をもたらすのかという点において、つまり中国の軍事力増大への脅威認識において、欧州は甘いと著者は指摘しています。
米国が対中に集中する一方で、欧州は(米国から少しサポートされながら)対露に集中する。ゆえに中国の軍事的脅威はややもすると他人事的にみなすという欧州のスタンスは、欧州(NATO)の対露軍事力を弱める結果になります。
なぜなら、中国の軍事力増強は、限られた米国の軍事アセットを対中向けによりシフトさせることになるからです。一方で、ロシアによるウクライナ侵略で明らかになったように、今の欧州が米国のサポートなしでロシアに向き合うことは難しく、現在の欧州の取り組みをみると、この状況がすぐに変わるとも思えません。
そのなかで欧州の無邪気な対中認識が招く中国軍事力向上は、結果的に欧州正面におけるロシアへの対抗力の弱体化に結びつくのです。
さらに米中間で戦争が起きた場合、その勝者が米国であっても、戦後の米国の戦力再建には何年もかかることになるでしょう。その間、欧州に割ける軍事力はほとんどなくなります。このような軍事的空白期間が生じることを、欧州は避けねばならないのです。
そして、著者は「アジアにおける中国による軍事的侵略行動が招く直接的、間接的な結果は、それが現実になれば、欧州の安全保障にとっての厄災になるだろう」と指摘して、論を終えています。