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【論考紹介】 “短期戦への米国の強い拘りが抱える危険性” (America's Dangerous Short War Fixation, by Raphael S. Cohen & Gian Gentile, The RAND Blog, 31.03.2023)

以下は、上述の論考内容の日本語での要旨になります。

米国は短期戦で戦争を終わらせることに強い拘りをみせるが、戦争というものは、米国の歴史をみても、長期化する場合が多い。

戦争が長期化する理由の一つに、“サンクコスト(埋没費用)誤謬”がある。

つまり、軍事的合理性の観点からは、ある時点で戦争をやめることが適切な場合でも、これまでに投じたコスト(払ってきた犠牲)を考え、さらに戦争をエスカレートさせてしまうということだ。とりわけ政治指導者は、権力喪失を避けるために戦争をエスカレートさせて、逆転劇という賭けに出ようとすることが多い。現在のプーチンはまさにこの状況に陥っているわけだが、他国の指導者もプーチンと同じ道を歩む可能性はある。

また、核抑止も戦争自体の抑止や戦争の短期化に寄与しない。核兵器は最高強度の戦争を妨げるが、反対にそれより低い強度の戦争を促進する場合がある。いわゆる“安定・不安定のパラドクス”である。

さて、米国の短期戦信仰の危険性は何か?

ウクライナ支援に関していえば、次の2点だ。

一つの問題は、米国の世論形成者たちが、次々と戦場でウクライナが勝利することを過剰に求めてしまうということだ。その結果、戦果がなかなかあがらないことへの忍耐心が失われ始めている。

二つ目は、米国がウクライナでの戦争を管理・抑制して、戦争を短期戦に持ち込もうとする行いそれ自体が、戦争の長期化を招いているということだ。それは米国のウクライナへの兵器供与のあり方によくあらわれている。

短期戦信仰の危険性は、今後、米国が直面する可能性のある戦争、つまり中国の台湾侵攻に関しても存在する。

サンクコスト誤謬を考えてみよう。

例えば、中国の台湾侵略が阻止されたとして、それで中国が諦めるだろうか? 一方で米国が多くの損失を出して、戦場で敗れたのち、戦争から手を引くことができるだろうか?

いずれの場合でも戦争は長期化する可能性が高い。それゆえに米国は長期戦に備えなければならない。

また、ロシアや中国といった勢力は米国の短期戦志向につけ込んで、戦争の長期化を図ろうとする。これらの勢力は、戦争が長引けば、米国は戦略的な忍耐力の無さによって、自らの取り組みを駄目にすると考えている。

だから、「米国の目標が勝利にあるのなら、長期戦を戦うことよりも悪い唯一のことは、長期戦の回避が可能であると考えることにあるのかもしれない」。

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