【SNS英文投稿和訳】エミール・カステヘルミ氏:ウクライナ戦況分析:ドネツィク州東部・南部方面(日本時間2024.10.30 05:30投稿)
上記リンクから始まるX連続投稿は、ウクライナ領ドネツィク州方面の戦況分析です。
投稿者のエミール・カステヘルミ氏はフィンランドの軍事史家・OSINTアナリストで、同国の戦況分析チーム「ブラック・バード・グループ」の一員でもあります。
以下に続く文章は、カステヘルミ氏のこの連続投稿を日本語に翻訳したものです。なお、この翻訳記事中で使用した画像は、カステヘルミ氏のX投稿に添付されているものの転載して使用しています。なお、[ ]内の記述は、訳者による補足になります。
日本語訳
ドネツィク州東部及び南部の70km幅の戦線上で、ロシア軍は最近、大規模な攻勢を開始した。
この攻撃によって、たった数日間で複数の地点において、ウクライナ軍の防衛網が破られている。そして、今後、危険な進展がいくつか生じる可能性がある。この連続投稿で、私はこのテーマに関する見解を示していこうと思う。
今回のロシア軍作戦の主な重点は2箇所で、一つはセリドヴェ~クラヒウカ[Selydove-Kurakhivka]地区であり、もう一つは南側方面[Southern direction]だ。この南側方面のシャフタルシケ[Shakhtarske]とボホヤウレンカ[Bohoyavlenka]の間で、敵軍は現在、前進している。各方面にそれぞれ固有の問題と脅威が存在する。
短期的な時間枠でみて、ウクライナ軍がセリドヴェ(侵略前居住者数21,000人超)をすでに喪失してしまった可能性はかなり高い。この町は、アウジーウカ[Avdiivka]奪取後にロシアが占領した市町村のなかで最大規模の町だ。セリドヴェ制圧と並行して、ロシア軍はヒルニク[Hirnyk](侵略前居住者数10,000人)も占領した。
ロシア軍は現在、続けて東方向に向かっている。そして、クラヒウカ[Kurakhivka]からの撤退をウクライナ軍に強いるため、包囲の脅威をつくり出そうと試みている最中である可能性が高い。クラヒウカ貯水池まで前進できた場合、ロシア軍はさらに作戦を進めるための発起点として、良い場所を手に入れることになるだろう。
南側方面でロシア軍は、たった数日間で10kmの距離を前進した。ロシア軍は現在、少なくともシャフラルシケとノヴォウクラインカ[Novoukrainka]のそれぞれの大半を制圧しており、おそらくボホヤウレンカを完全に制圧しているものと思われる。この地区において、ウクライナは土地を失ってもまだ大丈夫だと指摘する人がいるかもしれないが、その見解に私は同意しない。
この地区でさらに多くの領土を失うことになれば、深刻な影響が加わりかねない。この地区におけるウクライナ側の戦闘準備状況を検討すると、問題は明白になる。ノヴォウクラインカにおいて、ロシア軍は最後の主要強化防御陣地群を迂回しつつある。なお、この陣地群の背後に、大した陣地は存在しない。
地図上で表示できてはいないが、樹木線上に設けられた野戦防御陣地がいくつか存在している。しかし、かなり大規模に準備された陣地は、少なくとも十分な数、存在しているようにはみえない。現在の状況はまた、ウクライナ軍が前線に近接した地区で、さらなる塹壕構築をすばやく始めることもできなくしている。
ロシア軍の前進ペースと同軍の空軍力によって、ウクライナは建設機械を前線のすぐ近くにまで持ってくることが、そうしたくてもできないだろう。もちろん、可能性は低いが、ウクライナ側が甚大な損失を覚悟すれば話は別だ。また、この地域にかなり大きな自然障害物は存在しない。ほとんどが平坦な地域だ。
戦線をもっと大きくみると、以下の地図に示したもの[*注:以下地図の青線]が最も強力に要塞化された地点であり、好ましい自然障害物を伴う最も防衛に適した地点だ。だが、最悪のシナリオの場合、ウクライナ側防衛網に現時点で存在する弱点につけ込むことによって、ロシア軍はこれらの地点を迂回し、側面から攻撃することができる。
シナリオ1:
ロシア軍目標と想定されるものの一つ。クラヒウカ貯水池に到達したのち、ロシア軍はアンドリーウカ[Andriivka]という町に向かって前進を継続する。高地の尾根に沿って前進することで、そこでの防御側の利点をほとんど無力化してしまうことになるだろう。
上述と並行して、これもアンドリーウカを目標とすることになるが、南側でも進撃することで、防御準備の整っていない野外を通過してロシア軍は前進できる。このように状況が進展した場合、ウクライナ軍守備隊が、強固に要塞化されたクラホヴェ[Kurakhove]地区からの撤退を強いられることになる可能性がある。というのも、補給線が脅威にさらされることになるからだ。
シナリオ1の状況が発生するには、かなりの規模の戦力と成功が継続することが、ロシア軍にとって必要になる。だが一方で、ロシア軍がこの作戦機動を何とか成し遂げられた場合、同軍はクラホヴェ~アンドリーウカ地区に存在する広域な塹壕網と、攻撃側にとって困難な尾根線に対する、犠牲の大きなじわじわとした進撃を避けることができる。
シナリオ2:
このシナリオのコンセプトは"シナリオ1"と同じだが、規模はもっと小さい。両翼からのロシア軍の進撃は、想定できる最も近い地点で、守備隊の背後を断とうと試みることになる。この地点はダチネ[Dachne]になるだろう。クラホヴェは喪失することになるが、この場合、防衛側はシナリオ1よりは好ましい状況下で戦闘を続けることができるだろう。
現時点でロシア軍は、戦線に開けた穴を活用して、それを突破行動に拡張していくことができずに苦心している。ウクライナ軍が何平方kmもの領土を失っているとはいえ、守備隊は無秩序な崩壊状態に陥ってはおらず、極めて重要なものは、まだ何も失われていない。
今後の可能性として、かなり可能性の高いものとして、上述した最悪の二つのシナリオが具現化する前に、ウクライナ軍がこの地域に予備戦力を移すことができ、ロシア軍の機械化攻撃をすり潰すことができるというものがある。だが、現在の進捗傾向に変化がなければ、2025年を迎える前にウクライナがクラホヴェを失う可能性は存在する。
10月に比較的広大な領域を占領することにロシア軍は成功した。私たちの計算によると、ウクライナは10月に、2022年夏季以降でみて、ひと月あたりで最も多くの領土を占領されている。さらに、ロシアはクルスクにおいて、領土の一部を奪還している。
参考のために示すと、以下地図の濃い赤色の箇所は、2024年8月初めのロシア側支配地域と評価した地域だ。なお、ウクライナ軍クルスク攻勢前の時点の話である。一方で薄い赤色で示した地域は、クルスク作戦後に東部戦線でロシアが占領した地域である。
全般的な状況は極めて懸念されるものであり、さらにウクライナ軍は薄く広がって展開している。これから迎える冬は、厳しいものになっていく可能性が高い。
私たち「ブラック・バード・グループ」のチームは、戦況の追跡と分析を今後も継続して行っていきます。
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