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【論考紹介】 ウクライナ攻勢のその先に向けて: 長期戦に備えた軍事力整備を進める必要性が西側にはある (Beyond Ukraine’s Offensive: The West Needs to Prepare the Country’s Military for a Long War, by Michael Kofman & Rob Lee, FOREIGN AFFAIRS, 10.05.2023)

マイケル・コフマン氏とロブ・リー氏によるウクライナ支援のあり方についての問題提起。

ウクライナ反攻とその成否ばかりが注目されるが、重要なのは攻勢後のことを検討することだと指摘。なぜなら、ウクライナ攻勢が最も上手くいく場合でも、一回の攻勢によって、戦争が終わることはないからだ。

ウクライナ反攻が最も順調に進行した場合でも、昨年のハルキウとヘルソン同様に、いずれ攻勢はピークを迎え、新たな消耗期に入る。それゆえに西側諸国は、ウクライナが勝利するための長期的な道筋を、支援内容も含めて、検討することが極めて重要だというのが、この論考の主たる主張になっている。

軍事的観点からみて、攻勢は成功した場合でも損耗して終わる。また、ロシアが敗北を意に介さない可能性も戦争長期化を強く予想させる。長期戦がロシアにとって不利になる要素は多くあるが、プーチンは戦争の長期化がロシア有利に働くと“信じている”。彼がそう信じている以上、戦場でのウクライナ軍の勝利は戦争の終結に差し当たりは結びつかない。

さて、コフマン氏とリー氏はウクライナ反攻に影響を及ぼす各種ファクターにも触れているので、その点をいくつか紹介したい。

  • ロシア冬季攻勢:回復途上の戦力をロシアは消耗したうえにドンバス占領という目標も達成できず、ウクライナ側に反攻実施の好機を与えた。

  • バフムート戦:現時点での影響評価は困難。この地区でのロシアの戦力消耗を過度に評価してはいけない。消耗したのはロシア正規軍ではなくワグネルであり、しかも受刑者兵が中心だったからだ。

  • ウクライナ軍の新設攻撃部隊:西側兵器が入ったものの、質的に不揃いであり、訓練期間も圧縮されたものである点が懸念材料。また、ウクライナ側も将校・下士官、経験豊富な兵員を失っている点も問題である。

  • ウクライナ軍が導入しつつある諸兵科連合戦術の問題:NATO流戦闘方式の前提として、強力な空軍力と兵站能力がある。だが、ウクライナ軍はそれを欠いている。

……等々。

なお、ウクライナ軍の新設部隊の能力もロシア軍の防御陣地の抵抗力も、実際の攻勢が始まる前に評価するのは難しいと両氏は述べる。士気等の無形的要素はウクライナ側に有利である可能性が高い。しかし、総合的にみて、昨年ハルキウ反攻と比べ、ウクライナ側の状況はあまり好ましくないとのことだ。

しかし、いずれにせよ戦争は長く続く。だから、ウクライナも西側の支援国も、「忍耐」を前提とした勝利への道筋をつくらねばならない。

そして、「米国と欧州は2023年より先を見据えて、ウクライナの戦争努力への支援に必要な投資を行わなければならず、作戦行動を継続していくための計画も練る必要がある。加えて、単一の作戦への取り組みに望みを託すことを避ける必要がある」のだ。

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