色気
「ママ、色気って何?」
夕飯の支度中、エプロン姿の娘、あかりが唐突に尋ねた。私は包丁を持つ手を止め、少し考えてから答えた。
「色気かぁ。そうだなぁ、人を惹きつける魅力のことかな。例えば、パパみたいに誰とでも仲良くなれるユーモアと包容力とか、おばあちゃんみたいにいつも笑顔で上品な立ち居振る舞いができることとか」
「じゃあ、ママの色気は?」
あかりの無邪気な質問に、私は頬を赤らめ、少し照れくさくなった。
「ママの色気はね、あかりやパパを大切に思う気持ちかな。美味しいご飯を作ったり、みんなが笑顔になれるように頑張ること、それから…」
私は少し言葉を詰まらせ、あかりの瞳を見つめた。
「あかりが大きくなった時、素敵な女性になれるように、ママ自身がいつも輝いていたいって思う気持ちかな」
「ふーん。でも、ママは最近疲れてるみたいだよ?眉間にシワが寄ってる」
あかりの言葉にハッとした。確かに、最近仕事と家事の両立で疲れが溜まっていて、笑顔も少なくなっていたかもしれない。
「ごめんね、あかり。ママ、ちょっと頑張りすぎちゃったみたい。これからは、もっとあかりやパパとの時間を大切にしたいな。一緒に色んなことしようね。「うん!ママと一緒にお菓子作りたい!あと、公園でバドミントンもしたい!」
あかりの瞳がキラキラと輝き、私の心も温かくなった。
次の日、私は仕事を早めに切り上げ、あかりと一緒にクッキーを作った。あかりは、生地をこねたり、型抜きしたり、楽しそうに作業していた。焼き上がったクッキーは、少し不格好だったけど、あかりの笑顔で何倍も美味しく感じた。
「ママ、美味しい!世界一美味しいクッキーだよ!」
あかりの言葉に、私の胸は幸せでいっぱいになった。
週末には、家族で近くの公園へ出かけた。バドミントンのシャトルを追いかけるあかりの姿、それを優しく見守る夫の姿。何気ない日常の風景が、私にとっては何よりも大切な宝物だと感じた。
その夜、お風呂上がりのあかりが、私の膝の上で眠ってしまった。あかりの寝顔を見つめながら、私は心の中で誓った。
「これからも、この子たちの笑顔を守るために、私自身が輝き続けたい。それが、私の色気だから」
そう思った時、私は自分の心の中に、温かいものが広がっていくのを感じた。それは、きっと私だけの色気。大切な人を思う気持ちから生まれる、優しい輝き。そして、あかりや夫と過ごすかけがえのない時間が、私をさらに輝かせてくれるのだと確信した。
暖炉の火がパチパチと音を立てる、どこか懐かしい雰囲気漂うリビング。窓の外には、色とりどりの紅葉が広がり、秋の深まりを感じさせる。
「お母さん、私ね、最近気づいたことがあるの。」娘のあかりは、紅茶を口に運びながら、少し照れたように話し始めた。「私の魅力って、きっと大切な人を大事にすることだと思うんだ。そして、最近、そんな大切な人がどんどん増えていってる気がするの。」
あかりは、高校の演劇部で知り合った友達とのエピソードを語り始めた。その友達は、最近、家庭のことで悩んでいた。あかりは、話をじっくりと聞き、共感し、励ます言葉をかけた。すると、友達は次第に心を開き、涙を流しながら感謝の言葉を述べたのだという。
「あかり、あなたは本当に素敵な女性になったわね。」母の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。「小さい頃から、あなたはいつも周りの人を気遣う優しい子だった。近所のおばあちゃんに手作りのお菓子を届けたり、怪我をした友達を励ましたり、そんな小さな優しさを積み重ねてきたわね。」
母は、あかりが小学生の頃、近所の公園で泣いている迷子の子を見つけ、一緒に親を探す手伝いをしたことを思い出していた。その迷子の子の母親は、あかりの優しさに深く感謝し、その後も交流が続いている。
「あなたは、周りの人を幸せにする力を持っているのよ。」母は、あかりの手を握りながら、微笑んだ。「そして、その優しさは、きっとあなた自身にも幸せをもたらしてくれるはずよ」
あかりは、母の言葉に胸を打たれ、静かに決意を新たにした。これからも、周りの人々を大切に思い、感謝の気持ちを忘れずに生きていこうと。
数年後、あかりは大学を卒業し、愛する人と結婚した。そして、二人の可愛い子供を授かった。夫と子供たちを心から愛し、大切にしながら、あかりは毎日を丁寧に過ごしていた。
ある日、娘のさくらが、あかりに尋ねた。「ママは、どうしていつもそんなに優しいの?」あかりは、少し考えてから答えた。「ママはね、大切な人を大事にすることが、自分の魅力だと思っているの。さくらと弟のことが大好きだから、自然と優しくなれるのよ」
さくらは、母の言葉に目を輝かせながら、笑顔で頷いた。その笑顔を見て、あかりは、大切な人を大事にすることで、自分自身も幸せを感じ、周りの人にも幸せを分け与えることができるのだと、改めて実感した。
あかりは、これからも、家族を愛し、周りの人々を大切にすることで、自分自身の魅力を磨き続け、幸せな人生を歩んでいくことだろう。そして、その優しさは、きっと子供たちにも受け継がれ、未来へと繋がっていくに違いない。