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苦い思い出と推しの欠陥モビルスーツ

オタクが恋をした子に「俺は理解があるぜ」っていい所見せたかった話。

私は小さな頃ガンダムがなによりも大好きだった。
好きになったきっかけは親が見ていた「機動戦士Zガンダム」。
カッコイイロボットとキレイなビームが画面を縦横無尽に飛び交う様に子供ながら感動したことを覚えている。
内容ははっきり言って理解していなかったけど、ただただロボットがカッコ良くてずっと見ていた…が、そのZガンダムは再放送でほんの数話しか見ることが出来なかった。
それからしばらく日が経って、親が「機動戦士ガンダム」のDVDだったかビデオテープだったかをレンタルショップで借りて来てくれた。
「またあのカッコイイロボット達が見られる」と大喜びした私は返却期限が来るまで何度も何度も繰り返し視聴した。
小学1年生になった私は以前より多少ストーリーが分かるようになり1stガンダムの大まかな話とキャラクター達を知り、好きになり、そしてカッコイイロボットは「モビルスーツ」という総称があると知った。
それからは親に何度もねだりZガンダム、ZZガンダム、逆襲のシャアと次々と作品をレンタルしてもらっては時間の許す限りヘビーローテーションしていった。
その後もカードゲームやテレビ・携帯ゲームにハマリはしたが映像作品のガンダムシリーズを手の届く範囲で全て追い、視聴した。
そんな日々を続けていれば当然だけど周りは所謂オタク友達が大半を占めていた。
友達にガンダム好きはいなかったけど、ポケモンとかスマブラとか共通の話題で盛り上がったり勧められたアニメで感動したりとても楽しい日々だった。
年相応に好きな子もできて、しかもその子もオタク趣味でそのうち…いつか告白するぞ、なんて考えて過ごしていた。

けどそんな夏のある日1人の友達の言葉が私の頭を悩ませた

「パンナくんの推しって誰?」

推し…?
友達曰く推しを持つと時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる、らしい。そしてどんな作品にもおそらく1つは推しに該当するものが居るとも。
思い返してみたらガンダムを見ていてコイツが1番好きっていうのはとくに居なかった。
もちろんアムロやシャア、トレーズ閣下やロランみたいにこの作品ならこの人が好きだな〜ってキャラがいるにはいる。
でも友達の言う"推し"って程じゃあ無いんだよなぁ……
別に「居ない」と答えれば済む話だが、その話題を振ってくれた友達は不幸なことに当時私が恋をしていた子だった。
一目置かれた存在になりたい、カッコイイと思われたい、そんな欲が目をくらませ私に逃げのチョイスは無かった。
「やっぱモビルスーツだよな、俺が好きなのは!」
そう結論づけた私は胸を張って言った。

「俺の推しはヅダ!」

アニメのように心を読む様な超能力や読心術は持ち合わせていない私でも分かった。
あっ…私は間違ったみたいだ、と。
いい感じに盛りあがっていたグループに意図せずタイムストップ作戦を決行してしまった私は、友人達からの"クワトロ大尉も思わずメガバズーカランチャーを外してしまいそうなほどのプレッシャー"に耐えきれず「なんかごめん」と平謝りすることしか出来なかった。
よりにもよって好きな子との会話でこれ以上ないバッドコミュニケーションを叩き出した私は
「推しの話程度についていけない奴がいる時点で全人類がニュータイプになろうと相互理解と世界平和なんて実現するわけが無いよな」
なんて考えながら涙なのか汗なのか分からないぐらいべしょべしょになった顔を腕で拭いながら帰った。

家に帰って風呂に入り、直ぐに反省会を始めた。
今日学んだ事は3つある
1つ、推しは尊く誰にでも存在する
2つ、人間のような感情を持つ存在じゃないと認められないことがある
3つ、私はまだまだオタク文化の事を学べていない。
以上から導き出された結論は
「とりあえず推しをコイツって決めてみる」
だった。
ビビッときて決まる"推し"は分からないけど、推そうと決めた"推し"をとりあえず作ってみて友人達の気持ちを知ってみよう、という魂胆だった。
「よし、そうと決まればオススメされてたアニメから推しを決めるぞ〜!」
それからの私はアニメでは「とりあえずの推し」を作って視聴するクセを付けるようになった。

「1ミリもわかんねぇ〜!!」

ちょうどワンクール分、クセを実行してみたが
やはり天然イノベイターと人工的に「そうであれ」と作られたイノベイドでは似ているところがあっても全然違ったように、私は友人達の"推し"感情を理解はできても共感だけは出来なかった…
しかし!私もオタクの筈だ!
恋を知ったんだ、誰が諦めるものか!
オタクという点以外共通点のないあの子に認めてもらうためにも、今は耐えるのだ。信じてこそ得ることの出来る栄光をこの手に掴むまで、この命"推し"の理解の為に使う!
それからのオタ活は"推しはああじゃないといけない"とイメージを固定してしまって、視野が狭くなってとても息苦しかった。
それに、覚悟したはいいが季節は冬であと数ヶ月で卒業という現実が迫ってきていた。
好きな子に俺にもわかったよ!良さが!と言いたい一心で私の苦しいオタ活は続いた。
間に合うものか…。

やはり共感は間に合わず、あっけなく卒業。
進学して同じ学校に居てもクラスが別れて疎遠になり、久しぶりに一緒に下校できてウキウキしていた所に彼氏が出来たと嬉しそうに報告され私の恋は終わった。これが若さか…
20を超えた今でも彼氏が出来たと報告された時の衝撃が忘れられない。
10年近く前の記憶なのに未だに心を抉ってくるその思い出はユニコーンガンダムのビームマグナムの如き威力で、思い出して書いている今でさえちょっと辛い。
こいつは威力がありすぎる。
本当は私の推しはキャラだけど、パンナくんの推しは機械なんだね 


オタクの恋は終わったけど、オタクの問にはまだ正しい答えを見つけていない。光の速さでコンテンツを消費していっても手が届きそうにない。それでも、それでもいつかは……

私の推しはEMS-10 ヅダ
ザクⅠにコンペで負け、
機体性能に強度が追いつかず空中分解したり、
ホコリを被っていたらプロパガンダのために戦場に駆り出されて期待の新星みたいな扱いを受けたと思ったら敵に無様な過去を晒されてその席すら追われたモビルスーツ。
しかし決して良い機体とは言えないヅダは味方を守るために戦場に出て、憎きザクⅠの後継機を助け、一年戦争を最後まで生き抜いた機体でもある。最高だよな、マジで大好き。イケメン。

キャラクターでは真の意味で推しを見つけたことがない。
けど今はそれでいい。
次に推しができた時、クセでそうしようと決めたのかもしれない。
これまでに好きになったキャラたちも、みなそうだった。
だが、推しにするかどうかは自分で決めたことであって、偶然ではないはずだ。
だから、あとは私次第。
状況に潰されず真の意味での推しを見つけたいと
そう思いながら私は今日もオタク活動に励む。
いつかの問に「私の推しはヅダと○○です」と胸を張って言うために。

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