永谷園の麻婆春雨の思い出
私は永谷園の麻婆春雨が好きだ。本当に好きだ。
プリプリでモチモチでつるっつるな春雨に、濃厚な麻婆ソースがとろりと絡み、ひとくち口に入れただけで鼻の奥にふわぁっと広がる台湾か中国かベトナムか……どこかあちらの方の楽園。
シャキシャキとしたタケノコ、ぷるぷるチャグチャグとしたキクラゲ、たま〜に見かけるとめちゃくちゃ嬉しい豚肉、大豆でできているソボロ、「え? 唐辛子?」と思いきや実は……の赤ピーマン、そして安定感抜群すぎる人参たち。彼らが口に入るたび、その食感にハッとしてGOODで、この料理のハーモニーを最高に高めてくれる。全ての食材が、麻婆春雨に欠かせないメンバーだ。
さすが「あじひとすじ、永谷園」。ひたすらに「今までにない、他社にマネできない、なるほどの美味しさ」を追求し続けている。(永谷園の企業理念)
他のメーカーや、スーパー独自のオリジナルブランドの「麻婆春雨」も食べたことがあるが、やっぱり永谷園のそれとは全然違う。
麻婆春雨は1981年11月に発売された。
(おいおい大先輩じゃないか! 麻婆春雨先輩! マジ美味尊敬ッス!)
社長の指示を受けた1人の社員が2年間世界各地に新しい味を探し回って、ようやく開発した商品らしい。
リスペクトだ……! 何年もかけてこの素晴らしい味を見出したその社員の方も、商品開発を実現させた人たちも。そして、それを指示した社長も。
***
人生で初めてこの麻婆春雨を食べたのは、私が小学校の頃だ。初めて食べた時は衝撃的だった。……なんなんだ! この異国感漂う、ちょうどいい感じに甘辛くて、コクと旨みがあって、食感が最高で、白いご飯に死ぬほど合う、美味しい食べ物は!!
……この世で1番美味しい料理は、間違いなくこれだ。
4人家族で1袋分を分けるので1人分の量は少しになってしまうけれど、それでも晩ご飯の一食で食べてしまうのが勿体なくて、翌日まで残しておいて、2回にわたって大事に食べようとした。
すると、当然春雨なので一晩で水分を吸いすぎて歯ごたえゼロのボソボソとした何か別のものになってしまい「こんなことなら完璧に美味しい状態の昨日に満足いくまで食べればよかった……」と、ものすごく悲しい体験もした。
こんなに美味しいものは他にない。人生の初めの方で、早々にそう悟った私は、毎年の誕生日の夕飯のメニューにも麻婆春雨をねだった。
誕生日やクリスマスを祝う風習がなかった我が家だったが、誕生日だけは夕飯のリクエストができた。
しかしそこに「誕生日のお祝い、何が食べたい?」というような直接的な表現は、使われたことはなく「ナミ、11日、何が食べたい?」と聞かれた。
我が家はとても貧乏で、両親はいつも忙しかった。
当時の私の中で、ご馳走の最上ランクに座していた、焼き肉や、お寿司、ステーキなどとは決して言えなかったし、手のかかるような鶏の唐揚げや、ハンバーグ、コロッケなどとも決して言えなかった。
きっと「これが食べたい」と言ったら、お金がないのに無理してでも連れて行ってくれるだろうし、時間がなくても頑張って作ってくれるんだろうと思ったから。
麻婆春雨はそれらに比べて調理が死ぬほど簡単だ。春雨を水に浸し、火をかけて付属のソースをぶっ込んで煮込むだけだ。必要なのは水だけ。調理時間は10分もかからない。
そして、なんていったって安い。
当時の価格がいくらだったのかは覚えていないけれど、現在では、近所のスーパーで一袋200円前後で売っている。なんでこんなに安いんだ! 永谷園さん、私たちにもっとお金を払わせてくれ!
調理がめちゃくちゃ楽で、ものすごい安上がりで、死ぬほど美味しく、子どもがアホみたいに喜んで食べる麻婆春雨は、母にとっても最高の食品だった。
私が毎年「11日は麻婆春雨を食べたい!」と言うと母は「そんなんでいいの〜? もっと豪華なものにしたらいいのに〜」と、少し困ったような顔をしながらも、ニコニコしていた。
「それがいいんだよ。麻婆春雨は世界で一番美味しいから。それじゃなきゃ嫌だ!」と、いつもお決まりのように返した。
安くて簡単で、しかも本当に世界で一番美味しい。
麻婆春雨は、我が家のみんなにとって最高な料理だった。
***
今でも、私は永谷園の麻婆春雨が大好きだ。
私の子どもたちも、それが食卓に並ぶと、喧嘩して取り合うほどに大好きだ。
野菜を入れたり、豚肉を入れたりしたアレンジレシピなんかもたくさんある。安くて、簡単で、美味しくて、栄養も取れて、子どもも大喜びなんて、こんな最高な料理が他にあるだろうか? いや……ない!
もし、永谷園さんや、麻婆春雨の原材料に何かしらの何かがあって、商品の価格が高騰することになろうとも、私はきっと最後まで最前列で食べ続けるぞ!
さぁ、今夜の麻婆春雨には、タマゴとニラを入れてみようかな。
おしまい
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