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ロブサン・サンボーの旅が、西川一三の人生が終わった

「天路の旅人」沢木耕太郎
●手に取ったきっかけ
2024年2月上旬。ビブリオバトル全国大会in生駒のWeb予選会中継を聴いたのは北陸遠征中。米原インターあたりで、うっすら雪をかぶった伊吹山をぼんやり眺めていた。初長距離ドライブの休憩中、コーヒーを飲みながら「緊張してるなぁ」と。耳からはこの本の内容が飛び込んでくる。眼前の山と作品の山、ドライブの緊張と未踏の地への旅の緊張、がシンクロしたのかもしれない。その場ですぐに、図書館サイトでweb予約したが、相当な人数待ちだったので「書店で会えるのが先か、あるいは図書館経由か」と思っていた。意外と早く縁がつながったのだ。

●読書期間
2024年4月中旬〜6月上旬。

●概要
「秘境西域八年の潜行」という長大な作品を書いた日本人、西川一三。彼は第二次世界大戦の最中、「密偵」のロブサン・サンボーとして、満州から内蒙古、中国西北域、チベット、ネパール…と旅をする。敗戦以降は、「ラマ僧」としてインドやブータンなど未踏の地への旅を続けることとなる。構想から25年。西川氏が残した3200枚の原稿、生前に行った50時間に及ぶインタビューなどをもとに書き上げられた、沢木耕太郎氏の最長作品。第74回 読売文学賞 随筆・紀行賞受賞。

●地図を片手に
帝国書院新詳高等地図とGoogleマップを片手に、位置を確認しながら読む。ロブサン・サンボーはとにかく歩く。危険といつも隣り合わせだが、美しい景色に魅了され、修行僧として心を磨きつつ、進めていく足取りは重苦しくも自由だ。特に、敗戦後「密偵」としての責務から自らを解き放ち、旅人になると決めてからは。読むことを止めることができなかった。旅が終わったあとは、1年のうち364日間働く生活を続け、静かに生涯を閉じた西川一三。今ごろ、天路を自由に旅しているのだろうか。

●沢木耕太郎氏へ感謝の一言
「深夜特急」以来、長らく著書に触れていませんでした。旅そのものから、旅人の姿を描き出す。旅行記ではなく伝記だったし「読み終わった」ではなく「旅が終わった」「人生が終わった」と感じられました。執筆後はロブサン・サンボーの旅路をまわってみたい、と思っていたとのこと。いつか実現した際にはぜひ、沢木さんの天路を見せてください。

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