「死ね、クソババア!」と言った息子が55歳になって帰ってきました(保坂祐希著)

 晴恵は自分自身に言い聞かせるように言った。
 「相手の問題じゃない。うまくいくかいかないかは、自分自身の問題なんだよ」

 こんな年になって、心配をかけられ、尻拭いをさせられたというのに、本当に満ち足りた気分を味わった。
 何かあれば、今でも頼られたい、と本気で思っている。残っている貯金をはたき、自分は施設を追い出されて野垂れ死にすることになったとしても、それはそれで幸せなことだ、と。

 素直になる、そうなった方が良いに決まってるし、そうしないと後悔が残るかもしれないことは、分かっている。
でも、なぜかそうできない。
その人が大切であればあるほど、気持ちとは裏腹な言葉、態度をときに示してしまう。
一人の時間を持ったときに、あのときなんであんな言い方しかできなかったんだろう、と思い悩むことを幾度となく繰り返してきた。

 言葉は言わないと伝わらない、少しのボタンのかけ違いが、とてつもない溝になってしまうこともある。言おう、ほんの少しでも、全部は難しくても、できる限り自分の気持ちを。

この本はそんな気持ちにさせてくれた。

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