見出し画像

no.11 続きの話…もうすぐ桃の節句という頃

在宅介護は、心理的にも肉体的にも、負担が大きい。
義母がデイサービスに行く日だけ、夫は半日ほど介護から解放される。
それから、在宅介護は来訪者が多い。
介護サービスなしでは、在宅介護はできないから、仕方がないのだけど、
在宅介護をしていると、家の中で、いろいろな人とすれ違う。
ケアマネ氏、ヘルパーさん、訪問診療の医師、看護師など。感謝の思いは尽きない。それでも、夫も同居の家族も、それなりに気は使う。
というわけで、夫も私もデイサービスを心待ちにしているのだ。
とくにこの日は、義母のデイサービスと私の休みが重なったので、久しぶりに外出したいと思っていた。
そこへ、例のアクシデント(干し芋事件)が起きてしまったのだった。

汚れたモノたちを手洗いし、ハイターに浸したら、もうお昼近く。
どうしようか、でも、外は良い天気だ。
うーむ、このまま家にいるのは惜しいではないか。
まずは、自分の気持ちを奮い立たせ、夫を励まし、ドライブに出かけることにした。義母が帰るまで、まだ4時間ある。

夫:「どこに行く?」(行く当て無し)
私:「そうだね、どこがいいかな」(頭がなかなか通常モードにならない)
夫:「早く決めてよ」
私: (!)

なんなんだ、この無神経さは!?
誰に似たのか、義母?いや義父?
しかし、喧嘩をしている暇はないのである。
行き先が決まらないまま、国道を西に向かって走りだした。
青い空を眺めているうちに、気持ちがしだいに穏やかになっていく。

隣の市との境まで来たところで、地元の伝統工芸品のことを思い出した。Googleマップを頼りに、町が運営している、伝統工芸品を扱うお店へ行ってみた。
通りに面した、ウィンドウの大きなお店で、中に入ると、七段飾りのひな人形が私たちを迎えてくれた。
すぐそこまで、春が来ていることに気づかされる。
目当ての伝統工芸品のほか、地元の野菜、それを使った手作りのクッキー、お土産品の数々が棚にきちんと並んでいる。
テーブルが二つだけの、小さなカフェもあり、コーヒーの香りが漂う。

夫は、どこにあったのか、鯉の形をした青銅色の文鎮を気に入り、買うと言う。
私は伝統工芸品をモチーフにした、小さな壁飾りを時間をかけて選んだ。
それから手作りのクッキーを自宅用に買った。

帰り道、手作りパンのおいしいお店に寄り、帰宅。
ささやかで、安価なドライブだった。
夕方、デイサービスから戻った義母、お昼ご飯も食べ、下痢もなかったそう。ひとまず安心である。

翌朝、出勤する前に、昨日の洗濯モノを干した。
汚れはきれいに落ちていた。まるで、何事もなかったかのように。
今朝は、夫の見送りの声が、明るく感じられたのだった。

在宅介護*観察日記『義母帰る』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?