見出し画像

不適切にもほどがある!がんばれと言ってはだめですか!!感想

昭和の親父が不適切なまま、令和に行っちゃった

思い切りネタバレあります。
 
2024年1月26日(金)より、宮藤官九郎脚本の新ドラマ「不適切にもほどがある!」がスタートした。クドカンドラマは昔から好きでいつも見ていたはずだが、気が付けばずいぶんと久しぶりになってしまった。
 
 今度のクドカンドラマのテーマは令和の時代にタイムスリップした昭和の親父が、世の中の変化と自由にものを言えない雰囲気に騒然とする。逆に令和を生きる母と子供が昭和にタイムスリップし、古臭くて粗暴な時代にショックを受ける形で始まる。時代を超えた価値観と雰囲気のギャップをクドカン流に風刺をきかせながら楽しもうという話だ。

 舞台は1986年東京、阿部サダヲ扮する昭和の親父が一人娘に「起きろブス!!」と返せば、「うるせー!きたねー顔近づけるな!」とスケバン刑事や大映ドラマに出てくるような娘が登場してスタートする。
 昭和の親父阿部サダヲは中学校の野球部の監督であり、練習中に水は飲むな、千本ノックにうさぎとび、挙句の果てに部員全員の連帯責任でケツバットととんでもない暴力教師だ。

 今の時代では全くの時代遅れであり、昭和の時代に小学生だった現在45歳の私だって当時も今もあんな暴力教師は大嫌いだが、当時はこんな教師はいくらでもいたし、うさぎ跳びもケツバットも当たり前の日常だった。
 しかし、令和の時代であれば生徒を殴るのはもってのほかで「バカヤロー」と生徒を怒鳴った瞬間、親が登場して学校にクレームが飛ぶ。

 阿部サダヲはある日近所のバスに乗り当たり前のようにたばこをふかしていると、一人の女子高生が乗っている。女子高生は「つるっとした軽いもの」を四六時中いじくりまわしており、耳から「うどん」を垂らしている。阿部サダヲから見れば変な姉ちゃんにしか見えず、煙草をふかしながら「うどん垂れてますよ」と親切に声をかけるが、女子高生はバスの中で煙草を吸っている奴の方が危険だと思っただろう。あとから乗った乗客からは「受動喫煙!副流煙!」と説教すると、阿部サダヲは女子高生に「こんな格好じゃ襲われても文句言えねーぞ」と完全アウトの発言して、乗客に逃げられる。

 昭和の時代では良くはないだろうけど普通の発言のはずが、なんだがものすごく不適切な発言に聞こえる。それにしても「つるっとした軽いもの」は何なんだ。
 そう、あのバスに乗って令和の時代にタイムスリップしてしまったのだ。「つるっとした軽いもの」は言うまでもなくスマートフォンで耳から出ている「うどん」は、白いワイヤレスイヤホンで音楽を楽しんでいるのだ。今この時代で公共の乗り物でタバコ吸うなんて考えられない。最低でも喫煙席、禁煙席がある。

 こうして、昭和の親父阿部サダヲは40年後の未来、令和にタイムスリップしたのである。

頑張れと言ってはいけないのですか!!

 令和にタイムスリップした阿部サダヲはとある居酒屋で炙りしめさばを頼んでいる。居酒屋は今日もたくさんお客さんが入り大賑わいだが、見慣れた居酒屋とはなんか違う。この時代の配膳係はなんと猫型ロボットが炙りしめさばを無限に提供しているのだ。といっても猫型配膳ロボはガストで見ているが、初めて見たときはマジでびびった。人間がAIに置き換わってしまう時代は思っているよりもずっと早い、ファミレスのウェイターが真っ先に猫型ロボットに代わってしまった。

 とどまることのない炙りしめさばに舌鼓を打つ阿部サダヲの隣で、なにやら深刻な話が聞こえてくる。どうやら会社の中堅社員がなんだか堅そうな人事部に尋問をうけている。どうやら中堅社員の受け持った新入社員がメンタル不調で会社に来なくなった。中堅社員によるパワハラやセクハラが原因だということで、お酒を飲みながらヒアリングというわけだ。

 もちろん7年目となる中堅社員はセクハラもパワハラもしていないといっている。人事部の追及によると、こんな風に証言している。

① 研修期間に新入社員に「頑張ったね」と励ました。
② 懇親会の時に率先してサラダのとりわけをしている新入社員に、「気が利くね。○○ちゃんをお嫁さんにする男は幸せだね」
③ スマートフォンのフリック入力の素早さに「すごいね。さすがZ世代だね」とホメた。

 なるほど、思いっきりパワハラ&セクハラですね。こりゃあメンタル崩して会社行けなくなるわ(笑)

 ① 新入社員に「頑張れ!!」なんて言ったらプレッシャーで押しつぶされちゃうでしょ
 ② 居酒屋でのとりわけは女の仕事って決めつけるなんて、そんなものは男も女も関係ないだろ。むしろ取り分けなんてナンセンス、焼肉もバーベキューもサバイバルだ。早い者勝ちだ。だいたい「お嫁さんにする男は幸せだね」って、多様性って言葉知らんのか! 女はお嫁さんになるとは限らないんだぞ。女もバリバリ仕事したいと考えないのか。さらにいうなら愛の形は一つではないんだぞ
 ③ Z世代って世代でくくるってパワハラだぞ。

 じゃあどうすればいいんですか?

 「相手が不快に思ったらもう○○ハラなんだよ。黙って成長を見守り、静かにフォローするものなのよ!!!!!!!!!!!!!」とドンとテーブルをたたいて立ち上がって叫ぶ
 
 無限に出てくる阿部サダヲはそのやり取りを聞いてて、ついに怒り出す。

 「頑張れって言っちゃいけないのか!!」
 「人は期待されて𠮟られて、期待に応えようとして、成長する。そういうもんじゃないのか!」

 すると人事部のベテラン女子社員はヒステリックに「こんな時代なんだからそういう発言はいけないのよ!!!!」

 「オレはこんな時代にするために一生懸命頑張ってきたんじゃねー」昭和から40年の時を超えて令和の時代にやってきた阿部サダヲは何もモノ言えなくなった未来に愕然とする。

 そして、人事部に懇親会と言いながら呼び出しをくらい、ガンガンに詰められていた中堅社員が突然「はなしあいましょーーーーー」と歌いだし、ミュージカルが始まる。

 そして、メンタル壊して会社に来なくなった新入社員が現れる。
 「しかってほしかったーーーーーー」

 なんだそりゃーーーー

 まあ、このようなメンタルヘルス話題で激論を交わすのは確かにデリケートであり、コンプライアンスやら老害やら時代遅れやらで炎上しかねない。ミュージカル調にするのは笑っちゃったが、上手いやり方かもしれない。

 こうやって、なんか知らない令和のいろいろと息苦しい時代にミュージカルで物申すことができたのは楽しくて良かったかもしれない。

 今クールはクドカンドラマの「不適切にもほどがある」をチェックしましょう

 感想・所感

 昭和60年代バブル期を生きるアラフィフ親父の阿部サダヲが40年後の令和に、逆に令和を生きる45歳ぐらいの吉田羊と中学生の息子が、どうやって行ったのかわからんけど、昭和の時代に逆戻りした。

 現在45歳の私は吉田羊と同じ時を生きているだろう。40年前の昭和の時代は小学生で、平成の失われた30年を生きてから、令和でしがない中堅企業の中間管理職として生きる。昭和のバブル期はスマホはおろか、インターネットも携帯電話も持っていない。かろうじてファミコンが登場していたぐらいの古き良い時代を懐かしがっていた。
 
 当時は小学生だったが、確かにバスでも電車でもタバコは当たり前、セクハラ・パワハラなんて言葉はなく、とにかく口の悪い大人が多かった。野球部のイメージは超怖い先生が、長時間の練習で水を飲むのは絶対ダメ、基本はうさぎ跳びに千本ノック、挙句の果てには連帯責任のケツバットという時代が本当にあった。

 舞台である1986年の日本は狂乱のバブル時代で一時はアメリカを抜いて世界一の経済大国になるのではと信じられていた。今じゃ考えられないけど「24時間戦えますか?」というCMが流行り、大人は本当に24時間仕事をしていたという。

 そんな昭和の時代を懐かしがっている私だが、あの時小学生でホントに良かったと思う。当時はおとなしく活発とは言えない子供だった私は、今も昔も口の悪い粗暴な人間が心の底から嫌いだった。私は地元の中学に進学せず少し離れた私立の中学に進学した。地元の中学のスパルタと不良の中学生と同じ学校に行くことが嫌でたまらなかった。

 中学高校時代を過ごした90年代は、私は理不尽な部活動に巻き込まれることなく平和に過ごしていたが、同年代の知り合いの中では、毎日厳しい部活に明け暮れて、監督や先輩からの体罰を受けていたという話も聞く。私は平和な学生生活を送れたのは良かったが、厳しい部活動を経験しなかったことが、いまひとつピリッとしないという弱点を抱えたかもしれない。

 そして2002年に新入社員として社会の洗礼を浴びた。今作の阿部サダヲのような粗暴で口も悪く、すぐ手をしてくる粗暴なくそじじいが上司となった。といっても今の私と同じ年齢だから困るのだが……

 そして、私はなすすべもなく入社半年で退職し、2000年当時では半年でやめてしまうワタシは大罪を起こしたかのように世間から突き放された。パワハラ三昧のクソじじいよりも私こそが世間にとって悪だった。

 2000年代は80年代のような理不尽はやっぱり一部ではまかり通っていた。しかし、このような理不尽はもう私たちで終わりにしようという流れもあった。その後別の会社で20年勤めることになるのだが、あの時のくそじじいのような真似は絶対やめようと誓った

 そして、令和の時代には80年代のよくない価値観から時代に合わせた価値観に合わせたはずなのに、なんだか奇妙で息苦しい時代になってしまった。

 「頑張れ」と言われたら嬉しいし、その言葉に励まされ苦しい時も力を発揮できると心から思えた。女性から「頑張れ」なんていわれたら勘違いもしただろう。
 
 しかし、上司の頑張れがプレッシャーになるのは、少しはわかるかもしれない。それがパワハラ認定されるのは全く持って理解できないけど、プレッシャーはわからんでもない。私が不機嫌なときは「頑張れ」が理不尽な押し付けに聞こえたり、「頑張れ」だけでなんも考えてないだろ!!、といった悪態もつくこともあった。

 中堅社員のパワハラ認定だって、様々な時代の変化に合わせて価値観のアップデートの結果だったはずで、当時の理不尽を見直した結果だと思う。

 それが多様性と言いながらの「空気を読んできた」結果、おかしなことになってしまったのだろう。

 それが、どうなっていくのかが怖いけど楽しみではある。

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?