Yu*

二児の母 臨床心理士&公認心理師  SNSも読み専で、自分からあまり発信することがないので、 NOTEに出会ったのをきっかけに、outputを試みる。 *読書記録はネタバレも含みます #読書記録 #子育て #アート

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二児の母 臨床心理士&公認心理師  SNSも読み専で、自分からあまり発信することがないので、 NOTEに出会ったのをきっかけに、outputを試みる。 *読書記録はネタバレも含みます #読書記録 #子育て #アート

最近の記事

海球小説【読書report】

まずことわっておくけれども、 この小説の読書reportは、ネタバレなしに書くことはできそうにない。 けれども、書きたいのは小説の内容ではなく、そこから受けた これまでにない読後感のことなので、ストーリーをたどることはしない。 「発達障害の当事者の人が、当事者目線で書いた小説」と、知人に紹介されて手に入れた。当事者の自伝ならば、ドナ・ウィリアムズやニキ・リンコなど、何冊か読んだことがある。ただ、この本は、「小説×解説」が交互に書かれているという、ちょっと変わった構造をしてい

    • スマホ時代の哲学【読書report】

      そっか、精神分析学は哲学の仲間だったのか! まずそこに納得してしまった。 大学院時代に最初に触れたものだったことから、一番馴染みのある理論は精神分析だ。 でも昨今心理学を学んでいる人達から、 「精神分析は科学じゃない」 という批判をよく聞く。 確かに、科学とは違う気がするが、 「科学ではない=正しくない(何ならマヤカシ)」というようなイメージで語られるので、ちょっとそれは納得がいかなかった。 私としては、人の理解に使いやすい学説だと思っているからだ。 しかし考えてみれば

      • 叱る依存が止まらない【読書report】

        この本で、私は長年ちゃんと説明できずにいたもやもやが2つ解けて、頭が整理された気分になった。 なので、読書感想と言うよりも、自分の整理のつもりでreportします。 一つ目 「理不尽に怒られることなんて社会に出れば山ほどある。多少理不尽に怒られることくらい我慢できる子に育てた方がよい」という論理に、「違う」と感じながらも、十分反駁できないもやもや。 → つまり、「我慢できるようになった」というように見える姿は実は、「学習性無力感」という現象であったということ。 確かに「馴

        • 生皮/【読書report】

          セクハラにおける、被害者と加害者の意識があきれるほど違うことを、 見事に描き出した作品だと思った。 加害者は、かならずしも男性だけとは限らないのだが、とりあえず一番大きいのは、男性と女性の体の違い、ではないか?と思わされた。 著者がそういうことを言いたいかどうかわからないが私の連想。 女性は凹で男性は凸である。 それは変えようのない人体の構造。 凹としての体感は、凸の体感と全く異なる。 セックスは共同作業であるがゆえに、また一体感を伴うゆえに、相手もまた自分と同じ体験をし

          木曜日の子ども【読書report】

          読んでいる時は気づかなかったが、感想を書く段になり、改めて読みなおしてみて、「中学生の男の子の父親である」ということが、どれほど大変なことなのか、それを象徴的に表した話なのではないかと思い至った。 清水芳明は、香奈恵と結婚し、連れ子の晴彦の父親になる。 晴彦は中学2年生だ。 思春期。 息子と父親との関係は、血がつながっていても、かなり微妙なものになってゆく。父が、息子にとって同性の大人としてのモデルでもあり、子どもに立ちはだかる壁でもある…というアンビバレントを、父も子も

          木曜日の子ども【読書report】

          オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る/【読書report】

          第一の感想は、オードリー・タン以前に、私は現代台湾を知らなかったということ。 「テクノロジー界の異才」とされ、15歳で起業、18歳で渡米し、シリコンバレーで起業、33歳で引退し、アップル社や大手ITメーカーでデジタル顧問を務める…云々、という目のくらむような経歴があるのだが、語り口は淡々としておりやわらかい。日本の、そういう新進気鋭なタイプの若者(オードリーは若者、ではないが)にありがちな、尖った感じがなくて、「特別なことは何もしていないし、何かを否定したり批判することにも関

          オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る/【読書report】

          ある男/【読書report】

          「マチネの終わりに」を映画で見たことはあるものの、著者の作品を呼んだのは初めてだ。読みながら、何度もその文体に魅せられた。 この作品も既に映画化が決まっており、表紙には出演者の写真があった。 ゆえに、原誠という、早い段階で亡き人となり、以降回想としてしか現れない青年の、深い悲しみを湛えたその姿が、窪田正孝のイメージとぴったり重なりすぎて、切なさも倍増したのであった。 著者が伝えたかったことは何だったのか。 「愛にとって過去とは何か」 これが、全体に投げかけられた問であること

          ある男/【読書report】

          すばらしい新世界/【読書report】

          登場人物に魅力を感じることができず、誰にも思い入れできない小説であったにもかかわらず、舞台設定が興味深いものだったのと、軽い調子の皮肉とユーモアの効いた文体(新訳)のおかげで、最後まですらすらと読むことができた。 この作品が1932年という昭和初期に書かれていたことに感銘を受ける。 もちろん、著者の想像力にも限界があるわけで、未来の世界と言いつつその当時影も形もなかったIT技術は登場してこない。 しかし、もし中途半端にIT技術が登場していれば、現実との齟齬が露わになって違和

          すばらしい新世界/【読書report】

          葉加瀬太郎2022/【コンサートreport】

          2回目の葉加瀬太郎。再び長男(中1)と2人で行ってまいりました。 初めて行ったのは、2年前で、コロナ禍が始まった年の年末だった。 あの時は、最初のstart!から涙がぽろぽろ止まらなかったのを覚えている。 今回は、そこまで揺さぶられることはなかったけど… でもやっぱり感動で涙腺がゆるむ。 この人のバイオリンは、「音楽を呼吸してる」っていう感覚になるので、 すごく気持ちが良いのだ。 ニューアルバム、「beautiful world」からは、 〈オルクドール~プラチナの風〉〈

          葉加瀬太郎2022/【コンサートreport】

          52ヘルツのクジラたち/【読書report】

          一気読みした。かなり悲痛なストーリーだが、文体が重たくないせいか、あまりどろどろしていない。主人公の貴瑚に、「病んでる」感を出していないからかもしれない。初対面で無礼な口を効く青年にビンタしたり、町のうわさ好きなおばあさん連中に辟易したりと、どこか他者に対して「強い」と感じさせる姿が最初に描写されるからだろうか。 過去を振り返ると、とことん排除され尊厳を無視されている子ども時期が描かれるのだが、それでも高校時代は親友の美晴とバイトに精を出し、良い就職先から内定をもらうところ

          52ヘルツのクジラたち/【読書report】

          「私ちゃんとしなくちゃ」から卒業する本/【読書report】

          読みながらまず、「痛々しい…」もしくは「イタイ」という感じが湧き起こり、でもそれが突き抜けていてある意味潔いレベルにまで行きかけているために、一般の読者も引き付けることができるのかな、と思った。 Amazonのレビューは酷評と心酔評の差がスゴイことになっている。 この人はおそらく、東畑開人さんの言うところの「野の医者」ってやつだなと思った。自分が癒された方法で人を癒そうとする、民間のヒーラーの典型。「ちゃんとしている人」を自分の経験から理解できる範囲でしか定義付けしていない

          「私ちゃんとしなくちゃ」から卒業する本/【読書report】

          流浪の月/【読書report】

          この本を読みながら常に思っていたのは、職業柄、自分がこの主人公の少女と関わる大人だったら、ということだった。 「19歳の男子学生に監禁されていた小学4年生の女児」 という構図で見れば、「性加害があったのだろう」といとも自然に考えてしまっているだろうし、それを女児が否定したとて、「抑圧」「解離」「ストックホルム症候群」という心理学的用語で理解しようとするだろう。 そして、真実を見落とし、少女からは信用してもらえないだろう。 この小説のような事件はまれなのかもしれない。 とは

          流浪の月/【読書report】

          フェルメール17世紀オランダ絵画展      【展覧会report】

          以前も、同じ大阪市立美術館にて、フェルメール展が開催されたことは記憶に新しい。 その時は確か、「牛乳を注ぐ女」がメイン展示だったのではないだろうか。 フェルメールは、日本では「光の画家」とか言われて、その作風にファンも多い。 しかし今回の展示は一風変わっていた。 完成された作品に、 実は修正された跡があって、 その修正前の姿が修復された… というのだから。 しかも、修正したのはフェルメール本人ではなく、その後の持ち主だったということまでわかったのだと言うからびっくりだ。

          フェルメール17世紀オランダ絵画展      【展覧会report】

          認知症世界の歩き方/【読書report】

          冷蔵庫を開けては、何を出そうとしたのか忘れてしまうし、 月曜日にやりかけていた仕事を、水曜日に出勤した時に再び一からやろうとしてしまう。 40代にしてこんな有様の自分は、近い将来認知症になってもおかしくない、いや既に、親和性があるような… と常々ひそかに恐れている私。 しかしこの本の世界を体験すると、何でそういう”症状”になるのかが、とてもわかりやすく、 安心…まではできないが、未知のものを恐れるのではなく、”正しく恐れる”感覚に近づけた気がした。 イラストも、絵本のよう

          認知症世界の歩き方/【読書report】

          「彼女は頭が悪いから」/【読書report】

          読後感が悪い本だと帯に書いてあった気がする。 あらすじを読んで、何度か買うことを躊躇した。 何度か手に取っては戻し、 …でもやっぱり気になって購入して読んで…読後感は、やっぱり悪かった。 東大生5人で、女子大生1人にわいせつな行為を行い、逮捕・起訴されるという事件がどのようにして起こったか、というストーリー。 「どうせ東大生狙いだったくせに。なに被害者ヅラしてるんだ」 「女が尻尾ふってついていってる。OKサインでしょう。なんで逮捕?」 「部屋に自分で行っておいて被害者

          「彼女は頭が悪いから」/【読書report】

          琥珀の夏 /【読書report】

          冒頭で、謎めいた学校生活の中にいた幼い子ども達の話が語られる。 そこから、小学4年生の法子が体験した不思議な理想郷、「ミライの学校」の思い出が語られる。 そして現代の法子に弁護が依頼される事件-女児の白骨遺体が発見される-から一気に学園のカルト的な側面があぶり出され、「理想の先生」達の本音やどこか歪んだ理想、思い上がりが見え始め、現在と過去が急速に混ぜ合わされて色が濁る。 ーこの学園で育ったミカが幼い頃に泉に混ぜた絵具のように。 この事件を期に、法子は「ミライの学校」で出会

          琥珀の夏 /【読書report】