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2018年に観た映画ベスト10

前回のワースト10に続いてようやくベストの方を。

2018年は初めてストリーミングサービスで映画を見始めた年だった。確かに便利っちゃ便利だが、例えばレンタルのように「期限付きで金出して借りた」ことへの責任感、価値づけがないためか少しだけ見てやめてしまうことも多々あって、映画を見る姿勢の変化を感じた。音楽はもはや「ながら」コンテンツとなったが、映画も知らぬ間にそうなっていっていたんだなぁ。

・Best10
グリーンルーム

貧乏パンクバンドがツアーでやって来たライブハウスはネオナチの巣窟だった!さらに楽屋で起こった殺人を目撃したせいで監禁されちゃったぞ!みんな無事に逃げられるの〜?って面白いに決まってる。さらにネオナチのボスがパトリック・スチュワートなんだからもう。

ジェレミー・ソウルニエという監督の長編第二作で、この前に撮ったブルー・リベンジもかなり面白い。どちらもバイオレンス描写が見応えあるし、どこへ行くか分からない話の展開も見事。この人とよく組んでるメーコン・ブレアという俳優兼監督もまた面白くて、この界隈で結構面白そうな人たちがつながってるのかもと少し期待している。


・Best9
エヴォリューション

ルシール・アザリロヴィックというフランスの女性監督。この人は前作エコールがガツンときて、新作を待って久しかった。

少し突き放したストーリーテリングなので、ともすれば退屈になってしまいそうなところを、深緑を基調にしたゾッとするような映像で、一瞬の隙も見せずにどんどんそのドロドロした世界観に引き摺り込んでいく。そのオブジェクトやシーケンスのひとつひとつがツボ。

中身としてはエコールと全く同じことを舞台を変えてやってた訳だけど、こちらの方がより現実離れしていて、評されているようにクローネンバーグやリンチなんかの見る麻薬映画としての趣が際立っていてよかった。

ちなみにこの監督もそうだが、フランスの女性監督の性(特に少女)に対する攻め具合はすごい。ロリコンが文化として認められて(しまって)るのは日本とフランスくらいじゃないだろうか。


・Best8
ザ・ヴォイド

2018年にこんな映画が見られるとは。カルト、田舎、病院、異次元、人体変異など、羅列するだけでよだれ出てくる全部のせの設定を、時代に置いてかれたようなガチンコ特殊効果で力強く見せる。

設定だけならこういう映画はたくさんあって、それのどれもかなりの確率でつまらないんだが、それらとは感じられる気合いと愛が圧倒的に違っていて、見ているこちらも暖かい気持ちになる。そして気合いだけじゃなくてテンポも画作りもちゃんとよくてしっかり面白い。

あと個人的なオールタイムベスト映画スコット・ピルグリムの愛しのナイヴス・チャウことエレン・ウォンをめちゃくちゃ久しぶりに見れたのも嬉しかった。


・Best7
デトロイト

This is America。日本にいると人種差別は知識上のものだけど、これを見るとそれを少しだけでもリアルに感じられる。歴史や文化、世界を知らせてくれるコンテンツとしての映画の役割をフルにいかしている秀作。

さすがキャスリン・ビグロー。骨太な描写で140分をしっかり見せる。個人的には彼女の最高傑作ではないかと思う。そして生粋の悪役顔ウィル・ポールターくんの清々しい卑劣さ。

この映画でくらうダメージはトリアーとかのそれと同じ種類だと思うけど、こっちは事実なのでよっぽど救いようがない。


・Best6
へレディタリー/継承

今年は前評判のいい映画に期待を裏切られた年だった。カメラを止めるなはただのメタ映画だったし、クワイエットプレイスは凡作だった。そんななか僕を救ってくれたこの一作。

秀逸すぎる演出でギャグな展開も陳腐な設定も払拭し、圧倒的な息苦しさでもって精神を捻り潰す極悪ホラーになっている。特に音響(実験音楽家のサックスでの演奏らしい)と、言わずもがな演技、というか顔芸の物凄さは秀逸。ナットウルフの過剰演技もホラーには合うことが分かってよかった。

こういうのをベストホラーと呼ぶんだよクソクワイエットプレイスめ。


・Best5
マンディ 地獄のロード・ウォリアー

はい、80年代ネオンディストピア系の最終形態入りました。

めちゃくちゃに力作。80分の内容を120分にするだけの美学と血潮が詰まっていて、映像が徹底してVHS画質でかなりドラッギー。完全に麻薬の世界。

前半はニコラス・ケイジ出てる意味あるのかって感じのアート描写が続くが、後半から一気にニコラス覚醒。安定の変顔を晒してくれる。

社会から遮断された世界の世捨て人たちのバトルはある意味寓話的で、劇中で出てくるファンタジー系のオブジェクトと被ってくる。

クレジットを見て驚いたんだけど、音楽が故ヨハン・ヨハンソン。始終鳴り響くノイズやドローンは、きれいめのポスクラのイメージがついてた彼の本来のアーティスト性が見えてよかった。そしてそれとハードロックのコントラストもなかなか。

マッドマックス 怒りのデス・ロード以来でビジュアルが完璧と思わされた映画でもあった。


・Best4
マザー!

圧倒的。ダーレン・アロノフスキーの手腕、ここに極まるという感じ。ロングショットでPOVかのように「マザー」の視点で撮られた映像は、見ているうちに抗えない臨場感と「家」の把握を余儀無くされる。そこで繰り返される神話と世界の縮図のような地獄絵図。全ての瞬間に惨劇の予感を孕んでいて目が離せない。

アロノフスキーはこれまでにバリバリの宗教映画ノアとか坊主のヒュー・ジャックマンが座禅組んで宇宙を飛んでいくファウンテンとか、その信心深さ?を度々映画で表現してきた訳だが、なぜかここにきてこれまでの彼の宗教観をひっくり返し、醜悪な犠牲と献身のキリスト教映画を作り上げてしまった。何かあったのかな、ちょっと心配。でもこの先も人を不安に陥れる映画を作り続けてくれることを期待している。

ちなみに彼のフィルモグラフィーの中では目立たないが、ホラーでもサイコスリラーでもない、普通の落ち目のレスラーを描いた映画レスラーが個人的には最高傑作だと思っている。


・Best3
ジュラシック・ワールド 炎の王国

我らがバヨナがやってくれた。前作のクソな部分を尻拭いし、新たな見解を提示してくれる。ちょっと劇場で感動してしまった。

前作、ジュラシック・ワールドの何がクソか。元祖パークでスピルバーグが、生命を創造してコントロールしようとする人間の傲慢さと、それに対する反省、恐竜への、生命へのリスペクトを伝えたのに対して、ワールドではあろうことか恐竜を調教したり、映画の展開に合わせて行動させたりと劇中でも映画自体でも人間の都合よく使うという愚行を行いやがったわけだが、

↓以下ネタバレ

これを今回は逆に、創造したことの責任を取って受け入れる、共存する、という流れをとる。これが素晴らしい。
この映画では恐竜たちは大自然を舞台に暴れまわるのではなく、人間に狩られ、隔離され、売られようとする。一見映画として退屈、恐竜たちがかわいそう、に見える訳だがこれは人間の傲慢さの表現。過剰なまでに醜く描かれた商人、軍人たちはまさにその象徴と言えるだろう。
そしていつも通りに、人間たちのアホな行動の結果として暴れ始める恐竜たちを、いつも通りなら退治するか逃げるかするところだが、今回は逆に、自分たちの世界へ解き放つ。
人間が創造したものの責任は人間にあり、生命は生命として自由に生きる権利がある。その、元祖パークの根底にある信念を今回ではさらに昇華して、隔離された場所での自由を与えるのではなく、自分たちの世界へ受け入れて共存することを選ぶ。
現実世界でも国家、宗教、人種間での分断が激しくなっているこのタイミングでこういう展開を持ち出すのは決して偶然ではないだろう。

↑ネタバレ以上

この映画を観て、島で暴れる恐竜出ないしなんか暗いし地味。という感想を持つのは簡単だが、何故そうなのかの意味を考えることは非常に大事なこと。
そして実は、この映画が伝えたいことは全てジェフ・ゴールドブラムがそのまま劇中で説明してる。

“Welcome to Jurassic World”

こうして、世界はジュラシックワールドになる。


・Best2
アナイアレイション -全滅領域-

初めて見た時、世界観に引き込まれ過ぎてエンディング後しばらく動けなかった。完成度が高すぎる。完璧なストーリテリングと演出、ビジュアル、音楽、編集。

落下した隕石を中心に始まった不可解な現象が起こる"領域"の調査をしにいく主人公たち。そこで目撃する異様な光景と生態系。本人たちにも現れる変化に翻弄、魅惑されながら、隕石の落下地点である"灯台"へ向かっていく。

物語としてはほとんどホドロフスキーのストーカーな訳だけど、それをアクション、ホラーの要素も取り入れてかなり分かりやすく表現してくれている。かといって軽くならず、哲学的な部分はしっかり中心に起き、様々な表現を介して生命とは、進化とは、その目的とは何かという疑問を投げかけてくる。

外界から遮断された"領域"の危なげな美しさはこれまでになかったビジュアルで、その表現を確立しただけでも賞賛に値すると思う。光、水、空に反射する虹色の揺らぎが"領域"のなかにいるということを視覚的に印象づけ、中心地に近付くにつれて濃ゆくなっていく美しくも恐ろしい変異たちに、観ている自分自身もどんどん映画の奥底に引き込まれていく。そして中心地で遭遇する最も深い"反射"の衝撃。そこらのホラーよりよっぽど背筋が寒くなる。

唯一言わせてもらえば、個人的にはラストカットは蛇足というか、そこまで分かりやすくしないで、例えば遊星からの物体Xのラストのように観客に想像させる余地を残して欲しかったなと思ったが、むしろ難癖つけられるのがそこくらいのほとんど完璧な映画。原作も機会があれば読んでみたい。


・Best1
人生タクシー

イランの巨匠ジャファル・パナヒの映画風ホームビデオが堂々のベスト1。あまりにも面白すぎる。言葉通り奇跡の映画。

この監督、世界で数々の賞に輝きながらもその内容が政権に批判的だったことから、映画作りを20年とか禁止されてる真っ最中。それでも彼は諦めず考えた。「タクシーにカメラを備え付け、自分が運転手となって乗客を撮影しよう。ただ録画してるだけで別に映画じゃないよ」

そうしてできた「映画」がこれ。何がすごいって、ほんとにただただ録画されてる映像に登場する人物、起こる出来事、会話の内容がこれ以上ないくらいに「映画的」なのだ。めまぐるしく入れ替わる乗客のとめどないドラマや交わされるイランの生活、政治についての会話の中身が作り物とは思えないくらい出来過ぎていて、映画として完璧に機能している。

もしこれが作り物だったとしても、82分のワンカットにこれだけのドラマと演出を詰め込んで完璧にやりきるなんて、それだけで奇跡的な傑作である。

彼はこれまで政府に批判的であるという理由から2度に渡り逮捕、拘留されて、そのせいで映画祭の審査員を欠場したりとか、軟禁中の自分を撮った映像のUSBを食べ物に隠して持ち出して映画祭に出品したりとか、もうその人生自体が映画のようで、その不屈の精神とユーモアは偉人と呼ぶにふさわしいと僕は思う。現代の最も偉大な監督の一人。


以上。並べてみるとかなり偏ってるなしかし。
今年はちょっと生活が忙しくなりそうで、どれだけ映画を見られるか分からないけど、きっとまた生きててよかったと思える映画と、いっそ殺してくれと思うゴミ映画に出会えることだろう。



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