「up-tempo work」第2章「辞令」 No.2
部長に声をかけられた大竹がゆっくりこちらに向かい歩いてくる。
すると周囲は、仕事の手を休め、会話を中断し、電話中の人は受話器を持ったままストップモーションのように動きが止まり私たちの方へ視線を向け始た。
部長の席の前へポケットに手を入れたまま彼は私の横に立つと、ちらりとだけ私を見た。
大竹は背格好も整っており、自身が持つ雰囲気だろうか、立っているだけでも存在感があった。
部長は座席の背をもたれに背を預け足を組みなおし、薄いイエローのスーツズボンのポケットに右手を入れると、先ほどまでのあっけらかんとした明るい声や笑顔は消え、落ち着いたトーンの声と話し方で、
「間宮くん、わかるよね、
大竹ちゃん、明日から彼女を君に任せるよ、頼んだよ」
大竹はメガネを右手で少し上にあげるように直し、もう一度私をちらりと見ると、わずかばかり間をおき、とても静かで穏やかな声ではあるがよく通る声で、
「何かの冗談ですか」
顔色一つかえず、平然憮然とした態度で部長に向かい言い放った。
周囲はさらにしんと静まり返り視線は大竹に集中する。
私はその言葉と態度に瞬きを忘れ口もぽかんと開け、
『えっ・・・』
何が起きているのか瞬間的に把握できなかった。
続く
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