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「nostalgie」No.4


「nostaigie 4」小説 



「いつか世界中を周り撮って歩くんだ」
秦がいつもそう言っていた。
「見てろよ」
誰に言うわけでもなく、一人呟いていた。
 デジタルカメラ1台しか持つ余裕がなかったのに、秦はずっとそう言い続けていた。
 「街の景色を撮ってくる」と出かけては、ぼんやりとした灯、華やかさを撮る秦ではなかった。

暗闇、夜の灯。
昼間に撮っていても、どこか暗く重い。

その灯からは、何故なのかわからないけれど、
「悲哀」のようなものを感じることがあった。

 労働に疲れた人の手(美しい手などでは無いのだ)、歌舞伎を撮っても裏方。能だと言っては、『面』を撮ったり、夜の闇に浮き上がる鳥居の『朱』だ。


 私が外に出かけられないと言うと、「久しく海を見てないだろう?」と言い。海に行き泳ぐ魚を探し、その朝釣られたばかりの魚たちを撮る。
 箱にぎゅうぎゅうと入れられている魚たち。
そのおこぼれをねだりに来た野良猫たちを撮っていた。

ーー目玉がギョロリとした生々しい魚に、私は怯えて嫌がったことがあったけれど、
その様子を秦は笑って見ていた。


 「それでは外の風景を」と私が知らない木々や山・広い海を撮ってきては、おそく目覚めた朝に見せてくれた。

 そして、望んでいたカメラを手にした、秦。

秦が次第に自分から離れて行くように感じていく。カメラを手にした秦に「仕事」が、舞い込んでくるようになったのだ。

私と別世界に向かっている秦。


ーー四角い枠の中の世界には一体何があるのだろう......

 だるい身体を忘れているわけでも無いのに、
私は秦が差し出したカメラを手に取りファインダーを覗いてみた。

つづく......


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