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「nostalgie」 No.3




「nostaigie 3」 

  テーブルがコトンと音を立てた。
『それ』は、君の手にすっぽりおさまるほどの、
小さなサイズの透明な丸いケースだった。

ーーあ、あれ?見覚えがある。

私が手芸用に使っていたケースを拝借したものだ。

中に何かが入っている。
何だろうと、目をこらしてみると、中には色とりどりの小さなビーズが入ってる。
「ねぇ、シン(秦)さん、これ何?」
「さっき、まほろに聞いただろう?」
「今日は何を撮る?ってさ」
「これを撮るの?」
「そう〜」

にこりと笑い、私が手にしていた本を取り上げて、静かに読み始めた。
パラパラとめくった頁を少しばかり読むと、途中で顔を上げ、

「なぁ、何故、同じフレーズがこの本には何度も出てくるんだろうね?」

「えっ?そうっか......、ねぇ、何処と何処?」

「ほら、ほら」

ーー確かにそうだ。
そう言われてみると記憶に残る程、そのフレーズは繰り返されている。
そして記憶としてその文章が私の頭の中に残っている。

「作者が好きな言葉なのかもね」

「ねぇ、ねぇ、何故かな?」

「う〜ん、わかんないけど、それが言いたいことなのかな?」

「さぁ、そんなに考え込まないこと」
「いいからいいから、ほら」

 私の言葉を遮るように、秦は窓という窓のカーテンを急いで開けると、テーブルにビーズをばらまいた。
すると、太陽の光を浴びた「ビーズ」がキラキラと息をし始める。

ーー植物のように光合成でもしているかのようだ。

 まるで、ビーズの中の細胞が動き出し、エネルギーを放つかのよう見えてくる。

「なぁ、少し水に浮かべてみようか」

ガラスの器にビーズを浮かべてみる。

水の中で動き出すビーズ。


「綺麗だね」

「だろ、よかった興味持ってくれてさ」

「さぁ〜、まほろ様、これを撮ってみようか」

「えっ、どんなふうに?」

「それは自分で考えてごらん」

「遊びながら、色んな角度で撮るんだよ」

「兎に角、やってみろよ」という秦。


 微熱が下がらない私だけれど、動くには動くことができる。

私はキラキラとするビーズと苦手なカメラを眺めていた。


つづく


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