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バスでイライラ

学校の帰り道、バスに揺られていると、自分の一個前の席とそのもう一個前の席に座る人が話しだした。


一人は若い大学生ぐらいの女性で、もう一人はハンチング帽から白い前髪がちらっと見えるシワだらけのお爺さんだった。


お爺さんが席を乗り出して、後ろを向いて喋っている。


変わった組み合わせだったので、絡まれているのかと思ったが、どうやら、お爺さんの通う病院にその女性とそっくりな人が入院しているらしく、それが親族ではないのかと、尋ねているようだった。


予想どうり、その女性の姉だったらしく、会話を弾ませていた。


バスという、赤の他人と空間を嫌でも共有しなければならない、一見窮屈なものも、こういった面ではとても素敵だなと思っていた、その時、隣に座っていた、男性が


「ちょっと、静かにしてや。」


と、ぶっきらぼうに言い放った。


一瞬、バスの中の時が止まったように静まり返る。お爺さんもぽかんとしていたが、すぐに状況を理解すると、残念そうな顔で


「すみません。」


といい、前に向き直った。


エンジンとタイヤの擦れる音だけが響く。隣の男性の貧乏ゆすりをして、落ち着かない様子だけが妙に気になって仕方ない。


男性の言っていることは何らおかしなことではない。バスの中でうるさくするのはマナー違反で、注意するのも、多少きつい言い方になってしまうのも、しょうがないのかもしれない。


だからこそ、どうしようもないわだかまりが残り、現代社会の生き辛さを否応なしに突きつけられた気がした。

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