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むっちゃん万十を初めて食べた時くらい感動する本:ジュンク堂書店福岡店のための選書15冊

ジュンク堂書店福岡店のフェアの際に寄せた推薦文です。書名、著者訳者、出版社名の順です。ややイランびいき。

▼toibooks磯上竜也さんversion

▼大滝瓶太さんversion

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワインポール・トーディ 小竹由美子訳
白水社

天才プログラマが、ワインにハマったら…? 内気な三十男が友人に、女性に、ワインにのめりこんでいく、どうしようもなくダメダメなその顛末が明かされていく構成が、まあ、あざやか! 著者自身が年代物のワインの世界に誘うソムリエのよう。ラスト、主人公が「ぼくは誰でもないのだから、自分の好きなことをすればいいのだ」とめざめるシーンは、将来身をやつすことが読者に分かっていても(いるからこそ?)感動的。

スクープ
イーヴリン・ウォー、高儀進訳
白水社

牧歌的に、ノ~ンビリと、イギリスの片田舎で「田園便り」を書いていた記者が、勘違いから内戦状態のアフリカの小国に特派員として送られてしまう。全編ギャグと皮肉がちりばめられて笑いっぱなしで。結末もそう来るか! 報道やジャーナリズムへの不満が下地にはあるのだろうけど、最後まで読者を笑いのめそうとする著者の大胆不敵さ! ブラックユーモアおおめなのでちょっと意地悪な人にオススメです。

③イラクサ
アリス・マンロー 小竹由美子訳
新潮社

冒頭の一篇を初めて読んだとき、何が書いてあるかわからない。これはネットニュースやSNSを眺めるような速度じゃだめなんだと、引き返してゆっくりゆっくり読む。まあ、これが驚きました。自分が日常では気づかないふりをしている、ちょっとした感情の揺れや煌きが行間にはパンパンに潜んでいる。短編ひとつひとつが長編並みのドラマを持つ、超高カロリーあるいはコスパ最高短編集。

僕の兄の場合
ウーヴェ・ティム著 松永美穂訳
白水社

「火炎放射器であいつらを燃やしてやった」と手紙を送ってくる兄と、「子供のころにかくれんぼがとてもうまくていつも最後まで見つからなかった」兄が同じ人物であるという悲劇。これが戦争なのだとおもいました。ホロコーストの加害者だった兄を持つ弟の、とても個人的な告白。『この世界の片隅に』が好きな人によんでほしい。

⑤亡命ロシア料理
ピョートル ワイリ, アレクサンドル ゲニス 沼野充義、北川和美、守屋愛訳
未知谷

アメリカに亡命した二人のロシアの文芸評論家が、祖国をおもいつつ故国のレシピを紹介したおす食エッセイ。ロシア文学というと重厚でとっつきにくいと思いがち(私です)ですが、自虐も皮肉もたっぷり盛り込まれていて実にゆかいゆかい。紹介されてるレシピ集もばっちりつくれます(分量は書いてないのでそこは気持ちで!)。

⑥ストーリー・オブ・マイ・キャリア 赤毛のアンが生まれるまで
L・M・モンゴメリ 水谷利美訳
柏書房

「赤毛のアン」「エミリー」の作者モンゴメリも、〈労働女子〉でした。それも女性がまだまだ働きにくい時代の。彼女が作家として名をあげたあと、後進の人々のために、自分の体験が何か役に立てば、と残したのがこのエッセイ。自身のキャリアをどのように苦心しながら築いてきたのかを正直すぎるくらい真っ直ぐ、赤裸々に書いています。彼女の道程の先に私たちが、そして私たちの歩む先にも私たちの子どもたちがいるのだと思います。

⑦マジック・フォー・ビギナーズ
ケリー・リンク 柴田元幸
東京創元社

「奇想」と「可愛さ」が手を取り合ってスキップで地球を何周もぐるぐる回るようなラブリーな短編集。荒唐無稽な展開から、私たちのよく知る感情がポロリと零れ落ちるところは、「目からビームが出る」の短編などがイカしてる気鋭の作家・大前粟生さんを思わせるのびのびっぷりが唯一無二! 

ギルガメシュ叙事詩
矢島文夫訳
ちくま学芸文庫

五千年頃前に、石材にガツガツに刻まれた人類史上世界最古(!)の物語。ギルガメシュ王が、野生動物同然だったエルキドゥを「人間」にするプロセスが読みどころ。王は女をエルキドゥに派遣して、性の世界、美味しい食事の世界、おいしい酒の世界を教えて、文明人にしていく。「社会人一年目を連れまわすマッチョ上司かよ!」という感じでツッコミながら読んでると、「あんまり人間って変わらんなと」と思えてきます(笑)。

⑨悪童日記
アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳
ハヤカワepi文庫

最後の2ページ、読んだ後、衝撃でしばらく口が開きっぱなしになりました。少年の目を借りて追体験する、戦火の街の時間。淡々とした文章の合間から、戦争の残酷さ、社会の理不尽さ、そこに生きる兄弟のたくましさやかわいらしさが溢れてきます。三部作の第一作目ですが、一作目だけでも戦争文学、日記文学、の大傑作では。

⑩U&I
ニコルソン・ベイカー  有好宏文訳
白水社

大作家・ジョン・アップダイクへの思いを著者が語る、はずのエッセイ。この著者、ふてこいヤツで実はアップダイクの本、あんまりちゃんと読んでない。読んでないのに、気持ち悪いくらいアップダイクを持ち上げ、愛を語る。ナゾ過ぎるし、怖い。でものこの気持ち悪さと粘着ぶりがエンタメになっている奇妙さ! 訳者の訳注も、著者に負けじと偏執的で◎。

黒ヶ丘の上で
ブルース・チャトウィン 栩木伸明
みすず書房

地味な双子な地味な一生。なのに泣いてしまう。ウェールズとイングランドの間に生まれた、双子の男兄弟。起きる出来事のひとつひとつは生活上必要なことで、全体に淡々としたもの。でも、この淡々さがなんだか尊くて、涙腺が緩む。老いた二人は最後、セスナ機に載って、今まで自分が暮らしてきた土地を見下ろす。その時胸に去来する感情は。

⑫ショウコの微笑
チェ・ウニョン 牧野美加・横本麻矢、小林由紀訳、吉川凪監修
くおん

韓国文学が本当に面白い。語り手の女の子の家に、日本人の少女ショウコが留学してきて始まる、少女とショウコのストーリーは、人どうしの「つながり」の尊さと儚さを鮮やかに示し、そして最後にある空白を残して終わる。溜息が出ます。

⑬ペルセポリスⅠ イランの少女マルジ
マルジャン・サトラピ 園田恵子訳
バジリコ

ときどき新聞をにぎわす中東の大国イラン。今、イランはすごく宗教的な国に見えますが、かつては「中東のパリ」と言われるほど欧米文化に染まった国でした。ところが1979年、イランでは革命が起き、西欧的なものが(表向きは)締め出されます。この本は、その革命の激動期に少女時代を過ごした著者自身の物語。全編、かわいくてオシャレな漫画なので、あっという間に読めちゃいます。アニメ映画になっており、そちらも超オススメ。

⑭天空の家―イラン女性作家選
藤元優子編訳
段々社 

イランの女性といえば、宗教に縛られているんだろうと思うかもしれない。でも意外なことに、革命後、女性はイスラム的服装となることで男性と肩を並べて働くことができるようになり、発言を増していく。文学の分野では「私にヘジャ-ブ(頭や体を覆う布)を着せようというなら、それに対抗できるのはペンだけだ」と語られ、革命は彼女たちの文学的闘争心に火をつけた。本書はそんな実力派のイラン女性たちの傑作集。

チェルノブイリの祈り
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
岩波書店

ノーベル賞作家による、チェルノブイリ原発事故に居合わせた住民たちから取材した声を写し取ったルポルタージュ。異様なまでに迫力を持った事故被害者や遺族たちの言葉のすごみにショックを受けて1週間くらい会う人会う人にこの本の話をしてしまった。歴史的事実から圧倒的な読み物をつくることということでは、石牟礼道子『苦海浄土』と読み比べてみて。


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