妊娠中のストレスは、子どもにとって悪いことばかりではないかも、という話

「ストレスはお腹の子どもに良くないよ!」

「イライラすると胎教に悪いよ!」

妊娠中にこんなことを言われてかえってイライラしたり、こんなんじゃダメだ、落ち着かないと…と自己嫌悪に陥ったりした経験のあるお母さん、結構多いんじゃないでしょうか。

私は男ですので、妻が妊娠している時は、できるだけ心穏やかに過ごしてほしいな~と、自分なりにあれこれと考えていただけなんですが、ある日ふと思ったことがあるんです。それは、

「そもそもイライラって、本当に胎児にとって良くないの?」

ということ。元の仕事がら、何種類もの動物が妊娠して出産するのを見守ってきたわけなんですが、いくつかの動物たちって、妊娠中のメスはあたりまえのようにイライラしてるんですよね。

正確に言うと、「イライラ」してるかどうかは動物に聞いてみないと分からないんですけど、飼育員として観察してると、そわそわしたり、攻撃的になったり、小さなことに過敏に反応したりと、明らかにストレス反応が出てるな~って感じてたわけです。

これって考えてみれば当たり前のことで、妊娠中は多少なりとも体が重たくなったり、いつもより動きが遅くなったりしますから、天敵などの脅威から逃げるためには、妊娠していない時よりも少し気にしすぎるくらいに周囲を警戒しとかなきゃいけないんですよね。

周囲を警戒するようになると、いつもなら気にならなかったことがどうしても気になったり、いろいろと考えて不安になったり、周りのものに対してついつい攻撃的になったりしてしまうのは当然のこと。

不安や攻撃性は、いくつかあるストレス反応の代表的なものです。

つまり、動物たちを見てると、

「妊娠中っていつもよりストレスを感じやすくなっているものなんだから、ストレスを感じちゃダメ!って無理じゃない?ってことは、ストレスを感じるのが普通なんだから、子どもに悪影響ないんじゃない?」と思ったわけです。

実際に妊娠中のホルモンバランスの変化を見てみると、妊娠初期には「プロゲステロン」という女性ホルモンの一種の分泌量が増えることで、不安感が増しやすく、イライラしやすくなってしまうそうです。

また、「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」と呼ばれることのある「オキシトシン」というホルモンは、妊娠初期から徐々に増え始めて、分娩時にピークを迎えます。

オキシトシンの効果にはいろいろなものがあるんですが、代表的なものだと、「仲間との結びつきを強める」というものが挙げられます。恋人や子どもなんかとハグした時の、なんとも言えない多幸感は、オキシトシンの分泌によってもたらされるんですね。

しかしこのオキシトシン、ストレスホルモンとしての側面ももっていまして、「仲間との結びつきを強める」かわりに、「仲間以外への攻撃性を高める」という効果もあるんです。

「仲間は大好き!敵は大嫌い!!」状態を作り出すことで、仲間同士の結束をたかめ、敵への対処を可能にしてるわけですね。

このように、妊娠中はイライラするのがあたりまえなホルモンバランスですので、「イライラが子どもに悪い」というのは、生き物として矛盾してる気がしますね。

そんなことをなんとなく考えながら本を読んでいると、面白い記述を見つけました。それは、

「妊娠中のストレスって、胎児にとって良いこともあるよ!」というもの。

これが書いてあったのは、ケリー・マクゴニガル著の「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」という本。子育てについて書かれた本ではありませんが、ストレス対策について専門的に書かれた本であり、非常におすすめです。

胎児とストレスの関係について書かれている部分の一部を引用します。

人間に関する研究事例を見てみると、妊娠中のストレスは害になるとは限らないことがわかります。100例以上もの研究事例を採り上げた2011年の報告書によれば、妊娠中にテロ事件に遭遇したり、住む家を失ったりするなど、重度のストレスを受けた場合には、早産や低出生体重などのリスクが高まることが分かりました。けれども、日常的なストレスやささいな問題が多い場合には、そのような傾向はみられませんでした。
妊娠中にある程度のストレスがあったほうが、むしろ胎児にとってプラスになることもあります。たとえばジョンズ・ホプキンス大学の研究では、妊娠中に大きなストレスを受けた女性たちが産んだ赤ちゃんたちは、脳の発達が優れており、心拍変動が高いことが分かりました、つまり、ストレスに対する脳のレジリエンスが高いしるしです。胎内で母親のストレスホルモンにさらされることによって、胎児に発達中の神経系はストレスへの対処のしかたを覚えます。

つまり、テロなどあまりにも大きなストレスを受けると、確かに早産などにつながることがあるが、ある程度のストレスであれば、むしろ赤ちゃんがストレスに強くなる可能性があるということ!

う~ん、これは驚きでした。

もちろん、だからといって「ストレスを感じまくるぞ!」というのもちがう気がしますが、妊娠中のストレスには、過敏になりすぎる必要はないんじゃないいかな~という話でした。

ここまで読んでもらえたことが、なによりうれしいです!スキをぽちっとしていただくと、30代の男が画面のむこうでニヤニヤします。