見出し画像

勉強しなさいとは言われなかったが【不思議で奇妙な話】

わたしはこのかた両親から「勉強しなさい」と言われたことがない。

我が家の教育方針は、わたしが小学生に上がった頃から放任主義になった。
両親は「早く家を出て行ってくれ」「子どもたちに遺産は一切残さないからな」と言い続けていた。

つまりは”自分の力で生きていけ”ということで、そのためには勉強しておくのがいいんだろうな、くらいには考えていたと思う。

高校生のある日。
宿題をしたくない気分だったので、リビングで「宿題したくないなぁ」と声に出して言ってみた。
父は「しなきゃいいじゃん」とあっさり言った。
ちなみに父は教職である。
勉強しようがしまいが、俺には関係ない、という理屈だ。

まぁ、翌日学校へ早めに行って、始業前に宿題しましたけどね...


「勉強しなさい」と言われなかったわたしが100%自主的に勉強していたかというと、ちょっと違う。

わたしの頭の中には「いつも怒鳴るオッサン」が住んでいた。

いつから居たのかは分からない。

オッサンが現れるのは、決まって半覚醒状態のときだった。

例えば、幼い日の夕方。
家で人形遊びをしていて、だんだん眠たくなって頭がボーっとしてくると、オッサンが現れ「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!」とワーワー叫び散らす。
わたしは驚いてハッと目が覚める。
怖くて心臓がキュッとなり、不安感が出てくる。

オッサンは明確な言葉はしゃべらないが「遊んでないで勉強しろ!!!」と言っているんじゃないかと、何故か感じていた。
そしてわたしは人形遊びをやめて、宿題にとりかかる。

姿形は見えないが、中年男性で声が低め、ということは分かっていた。

このオッサンは、わたしが20歳になるまで頭の中に住んでいた。
現れる頻度は大きくなるにつれて少なくなったが、大学生の頃にも現れたので、結構しつこかったなあと思う。

いったいアレは何だったのだろう。
…考えても答えは出ない。

そんなことがあったからなのか、現実にワーワー怒鳴り倒すオッサンを見ると異常に嫌悪してしまうのであった。