"長編小説 『じゃんだらりんの国から』 第1話 「永松家の人々」"

 昭和3年7月17日、三河湾に臨む小さな田舎町に、ワシは生まれた。

ワシの名は永松皆子。皆様お元気ですか?の皆子です。

ワシは近所では有名なお転婆娘で、木を枝から枝へと飛び移り、まるでヒヨケザルのように滑空しながら、田舎町の様子をまじまじと眺めていた。

「ミイ子ちゃーん!カルピスとカレーライス、用意出来たわよ!」

「おばあちゃーん!ありがとう!いま行く!」

カルピスにカレーライス。それは当時としてはかなりのご馳走で、普通の一般庶民にはまず、そんな頻繁にはお目にかかれないような品物であった。

そうです。永松皆子は、大家さんのミイ子ちゃん、つまり、今でいう、豪邸育ちのお嬢様だったのです。

父は警察官。母は薬師丸ひろ子似の別嬪さんで、転勤族であったため、あまり家にはいなかった。

それゆえ、皆子の幼少期はよくおばあちゃんと一緒に過ごしていた。

兄弟は他に7人いたが、兄弟の大半は父母と一緒に行動していたため、皆子とは殆ど疎遠になっていた。

そんなある日、永松家を揺るがす大きな出来事が起きた。いや、起きてしまった。

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