ナツノキセキ#11

小さなリュックサックに着替えとおもちゃを詰め込んだ。

もう楽しみで仕方なかった。

そんな気持ちをくみ取ったのだろうか。父親が

「じゃあ、そろそろ行こうか」

と手を取り僕を車に乗せた。

今回は祖父が最寄りの駅まで迎えにきてくれた。

「おじいちゃん、久しぶり」

僕は祖父を見るなりそう言った。

「久しぶりじゃの。冬弥も少し背がのびたんじゃないか?」

「うん5センチも伸びたんだよ!」

「そうか、そうか」

久しぶりの再会で僕は少し浮かれていた。

ここで父親とお別れし今度は祖父に手を引かれて歩き出す。

ここから電車に乗り港まで行き、そこからフェリーに乗り換える。

ざっと4時間くらいはかかるだろう。

行きすがら道中の景色が徐々に都会の喧騒から離れていく。

そして目の前に青い海が姿を現しだした。

もうすぐで島に着く。そう思うと心が躍り出しそうだった。

電車を降り今度はフェリーに乗り換える。

船着き場にフェリーが近づいてくるのがとても嬉しかった。

そしてフェリーに乗り込むと後はいよいよ島に着く。

そんな思いに身を任せていると幼い僕は疲れてフェリーに

乗り込むなり眠ってしまっていた。

「冬弥、起きなさい」

その声ではっと僕は跳ね起きた。

「もうすぐ島に着くぞ」

祖父はそういって前方を指さした。

船の窓からは徐々に大きくなっていく島が見えていた。

その時帰ってきたんだと知ることができた。

やっと優花に会える、という感情が一番大きかったように思う。

やがてフェリーは進み港へ入る。

島への跳ね橋が下ろされ乗客たちはそれぞれ降りていく。

僕も祖父に連れられて島に上陸した。

1年ぶりの景色。潮の香りや蝉の声。懐かしい感覚がすぐに僕を包み込んだ。

―やっと帰ってきたんだ

そんな事を考えていると遠くから少女の声が聞こえた。

「冬弥くーん」

ふとその声のする方向に目をやるとそこには優花がいた。

「優花ちゃん!」

僕はそう言うと走り出していた。優花は僕の手をとり

「久しぶりだね!冬弥くん」

と嬉しそうに言った。

「うん!久しぶりだね優花ちゃん!」

僕も精一杯の気持ちをその一言に込めた。

そんな感動の再会を喜んでいるとゆっくりとマスターが近づいてきて

「お久しぶりですね。冬弥君。優花も君と会うのを楽しみにしていたんですよ」

と僕に声をかけた。

「お久しぶりです。マスター」

僕はそういい軽く会釈をした。

それをみたマスターはふふっと笑みを浮かべたと思うと僕に軽く会釈をしてくれた。

「また一緒に遊べるんだね!楽しみだね!」

優花が続ける。僕はそれがとても嬉しかった。

僕は優花と会うのを心待ちにしていたけれど優花も僕のことを思ってくれていたなんて。

そう思ってしばらく話をしたときにはすでに日は傾きはじめていた。

「じゃあまた遊ぼうね!冬弥くん」

「うん!じゃあ明日ね」

そんなやりとり繰り返したあと僕は祖父と一緒に家路についた。

家についても明日何をしようとか優花とどこに行こうとかばかり

考えていた。その日はなかなか寝付けなかった。

それから僕は連日優花といろんなところへ遊びにいっていた。

僕が島に来て数日たった時優花がこんなことを言い出した。

「あのね冬弥くん。島の反対側にね、とっても奇麗な海岸があるんだって知ってる?

 ちょっと遠いけど一緒に探検しようよ!」

「島の反対側?前におじいちゃんと釣りにいったことがあるけどそこのことかな?」

「えっ行ったことあるの?優花も行ったことないのに~」

そんなやりとりをして僕たちは探検を始めることにした。

こんな小さな島でも子供の足なら大冒険であった。ゆっくりと手をつなぎながら優花と歩く。

そんなひと時が僕にはとても心地よい瞬間であった。

そして僕らは海岸へとたどり着いた。

真っ白な砂が敷き詰められた奇麗な海岸。遮るものは何もない。

その奇麗な景色に二人はしばらく見惚れていた。

「わぁすごい景色だねー」

「うん、きれいだね」

少しの沈黙が続いた後優花がいきなり走りだした。

「優花ちゃん。どこ行くの?」

僕がそう声をかけると優花はその場にしゃがみ込み何かを拾い上げた。

「見てみて冬弥くん!貝殻が落ちてるよ!」

そこには奇麗な白い貝殻が掲げられていた。

「じゃあどっちがきれいな貝殻を見つけられるか勝負しようよ!」

と優花は声高々に叫んだ。

「よし!僕も負けないぞ」

そう意気込んで僕も貝殻を探し始めた。

真っ白な砂浜を小さな手でかき分けていく。二人は一心不乱に砂浜に向き合っていた。

しばらくすると優花が

「冬弥くん!見て見て!青い貝殻を見つけたよ」

そういうと自慢げに僕に見せつけてきた。

僕はそれを見てさらに躍起になった。絶対優花よりきれいな貝殻を見つけてやると。

そうして砂浜を見渡すと一瞬キラッと砂浜が光ったような気がした。

その場所に近づいて探してみると奇麗な貝殻があった。

そうっと手で掬いあげるとその貝殻は真夏の太陽の光を浴びて虹色に輝いた。

―これだ

心の中でそう思った。

「優花ちゃん!僕すごいのを見つけたよ!」

そう叫んだ。

「えっ見せて見せて!」

そう言いながら優花は僕の元へ近づいてきた。

僕は得意気になりながらその貝殻を背中に隠した。

「ねぇねぇ見せてよ!どんなの見つけたの」

興味津々な優花に対して僕は

「見たらきっとびっくりするよ!」

と少し焦らした。

しばらく焦らした後背中に隠した貝殻を優花の目の前に突き出した。

貝殻は太陽の光を浴びてまた虹色に輝いていた。

「すごーい!冬弥くんすごいよ!いいなー」

そういって優花は負けじと貝殻を探し始めた。

しかし虹色の貝殻より奇麗な貝殻を見つけることはできなかったようだ。

しばらくして日が傾きだした頃僕は

「そろそろ帰ろうよ」

と優花に切り出した。

「うん。暗くなる前に帰らないとパパにおこられちゃうね」

と名残惜しそうに優花は呟いた。

僕たちは来た道を手をつないでまた歩き出した。

「あーあ。私負けちゃったな」

と残念そうに優花が言った。

「だって冬弥くんの貝殻すごくきれいだったもん。」

と少し不機嫌そうに続けた。

僕は

「去年は魚釣りで僕が負けたからこれでおあいこだよ」

とそう優花に話した。

「ふふっそんなこともあったね。じゃあこれでおあいこ、だね!」

僕らは笑いながら歩き始めた。

そんな中僕はボケットから貝殻を取り出し優花に差し出した。

「これ優花ちゃんにあげるよ」

僕がそう言うと優花は目を丸くして

「えっ本当にいいの?」

「うん。これは優花ちゃんにプレゼントだよ」

「やったーとっても嬉しい!私の宝物にするね!」

虹色の貝殻を太陽に掲げながら陽気に歩き出した。

その後ろ姿が奇麗で僕はしばらく見惚れていた。

多分この感情は好きということなのだろうと初めて実感した瞬間でもあった。


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