ナツノキセキ#8

朝日が差し込んでまもなく僕は目を覚ました。

急いで支度をして家を飛び出した。早く見つけなければ。

まずは最初に優花と訪れた海岸を目指した。あの虹色の貝殻を見つけたあの砂浜へ。

朝日が海面をキラキラと輝かせる中真っ白な砂浜を見渡していた。

遮るものが何もない砂浜に人影はない。ここではないのか。

僕はすぐに踵を返し今度は住宅街へ向かうことにした。

もしマスターが何らかの理由で嘘をついているとしたら優花は住宅街に住んでいるはずだ。

住宅街をひたすら歩きつづけた。途中何人かの島民と出会ったので優花について尋ねても

みんな知らないという。じゃあ本当に優花は島民ではないということなのか。

じゃあ俺が知っている優花は誰なんだ?どこへ行ったんだ。

ただ焦る僕の気持ちをあざ笑うかのように無情にも太陽は登り続ける。

まだ探していないところはある。

そうだ。秘密基地だ。あそこにいるかもしれない。

僕は秘密基地を目指して歩き始めた。簡素な木の棒でできた階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。

もう限界だ。足が動かないと思ったときにようやく頂上に着いた。

僕は咄嗟に

「優花!」

と名前を叫んだ。精一杯の力を込めて。

だが反応はない。辺りを見渡しても人影はない。

秘密基地には誰もいなかった。ここにもいないのか。

ふとベンチの横のごみ箱をみるとラムネの瓶が2本入っていた。

あった。はじめての優花の痕跡。あの時僕は確かに優花と一緒にここにいた。

その光景を噛みしめ必ず優花を見つけると改めて強く思った。

太陽はすでに下り始めている。もう残された時間は少ない。

結局その後も優花は見つからないまま僕は港付近を歩いていた。

もう太陽は赤みを帯び身を潜めようとしている時間。

ふと見上げた赤く染まった灯台を見上げた瞬間だった。

一瞬灯台の先端に人影のようなものが見えた気がした。

もしかしたら優花なのか?

その曖昧な手掛かりに疑うことはせず僕は灯台へ向かって走りだしていた。

灯台の階段を駆け上り頂上にたどりついた僕に見たことがある風景があった。

風に揺れたその長い髪と夕日に照らされた彼女の姿。

そこに優花の姿があった。

「優花!」

そう叫んだ刹那に僕は優花を抱きしめていた。

優花は泣きながら

「冬弥くん。本当にごめんね。ごめんね」

とただ繰り返す。

「なんでなんだよ・・なんで優花が謝るんだよ。悪いのは僕だろ!」

「だって私がわがままいったから冬弥くんに苦しい思いしさせちゃった。

 わたしが忘れないでっていったから」

「忘れないでってわがままなのかよ。覚えてない僕が悪いだろ」

「違う。そうじゃないの。ほんとは優花のこと冬弥くんは忘れないとダメなの!」

「なんだよそれ・・・全然わかんねぇよ!!」

僕は語気を強めて優花を強く抱きしめた。

「俺は・・・俺は・・・優花のことを忘れたくない!!」

その瞬間だった。

僕の頭の中で何かがはじける音がした。

時間が歪む様な気味の悪い感覚が僕を包み込んだ。

ああ、そういうことだったのか

僕は泣きながら優花をさらに強く抱きしめた。

僕は思い出したんだ。失われた優花との日々を。


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