30作品目 ドラマ「MIU404」(野木亜紀子)
どうも自家焙煎珈琲パイデイアです。
「淹れながら思い出したエンタメ」が30作品目でございます。
今週の書き留めはドラマ「MIU404」
今作は前回の「アンナチュラル」に引き続き、新井順子プロデューサー×野木亜紀子脚本×塚原あゆ子演出という名トリオが、星野源さんと綾野剛さんに主演に据えたTBSドラマ「MIU404」です。
重大事件の初動捜査を主な任務とする「警視庁機動捜査隊(通称、機捜)」に働き方改革の一環として、増設された第4機動捜査隊(通称、4機捜)がドラマの舞台となります。
簡単にいうと、バディものの1話完結型の刑事ドラマです。
割とシンプルな設定で、キャラクターも、冷静で頭の切れる志摩(星野源さん)と破天荒だけど、フィジカルが凄まじく、情に熱い伊吹(綾野剛さん)のバディと、働き方はまさに昭和、仕事一筋を根性で貫いてきた陣馬(橋本じゅんさん)と働き方は令和感覚、おまけに父親は警察庁の長官というキャリア組の九重(岡田健史さん)の2組のバディは綺麗な線対称。
前回「アンナチュラル」との比較①
「リアリティのある問題がリアリティをもって描かれている」
前回の「アンナチュラル」で野木亜紀子脚本の特徴の一つに「今のリアリティのある問題がリアリティを持って描かれているところ」とあげました。
今作においても、野木さんのリアリティのある問題に対する繊細な扱い方は素晴らしかったです。
第一話で扱われたのは「あおり運転」でした。
このドラマは2020年7月クールの放送でした。あおり運転が「妨害運転罪」として罰則化されたのは2020年の6月です。
つまり、法律の公布から1ヶ月後に、ドラマの中でリアリティをもって書き出しているのです。
もちろん、法改正のきっかけは2017年に起きている痛ましい事故ですが、それでも、このスピード感はすごい早さです。
あおり運転以外にも、外国人の労働環境問題、虐待のトラウマ、未成年の犯罪、反社、などのまさに今の問題をリアルに扱っています。
このあたりは「アンナチュラル」から引き続き健在です。
さらに、今作は志摩と伊吹のバディものという設定が、これらの問題を一層深く掘り下げているように思います。
つまり、感情的な面に目を向ける伊吹と、事件の事実に目を向ける志摩と、両視点をもって事件が描かれているところです。
前作「アンナチュラル」にも三澄(石原さとみさん)を感情、中堂(井浦新さん)を事実と当てはめられないこともありませんが、今作の志摩と伊吹の関係性によって、さらにその両視点が深まっていると思います。
それから、私の記憶の中で「コロナ禍」と「Tokyo2020」をいち早くドラマで描いた作品だったと思います。
ゴタゴタに揉めた新国立競技場の空撮した姿とサブタイトルの「0」を重ねたエンディングは見事でした。
SNSや個人の配信者による行き過ぎた個人情報の公開やプライバシーの侵害にもドラマのプロットの中で、自然な流れで警鐘を鳴らしています。
前回「アンナチュラル」との比較②
「物語とどう向き合うか」
前作「アンナチュラル」よりも掘り下げられている点はもう一つ。
「物語とどう向き合うか」というテーマです。
最終話で印象的なセリフに
これは黒幕として捕まった身元不明のくずみ(菅田将暉さん)が本名や生い立ちを志摩達に聞かれて答えたセリフです。
物語をキーワードにした時に、象徴的なシーンは3話のルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラ装置)について、志摩が九重に説くシーンです。
九重は罪を犯すことは最終的には自分で決断する自己責任であると考えます。それに対して志摩は、人によって障害物の数は違う、踏み外した道を自力では戻って来れない人もいる、と考えます。
誰かが罪を犯す物語が単独であることはないのです。いくつかの物語にぶつかりながら、転がってきた罪をたまたまその人が拾っただけなのです。
この回で犯人グループの高校生のうち、成川(鈴鹿央士さん)一人を九重は逮捕し損ね、成川はそのまま行方不明になります。
彼は後半で物語の大きな渦に巻き込まれ、生死を彷徨うことになります。
もし、この時、彼が捕まっていれば、追いかけたのが九重ではなく、別の4機捜隊員だったら、あり得た別の物語に弾かれながら、成川はドラマの中で描かれる物語を生きるのです。
前のくずみのセリフに戻ります。
私はこれを次のように解釈しました。
「俺の物語を、見えている物語だけで、お前らに勝手に語らせない」という解釈です。
くずみの物語には、くずみの物語そのものと、その物語を導いた見えない物語があるはずなのです。それを汲み取ることなく、勝手な物語を語られることへの抵抗のセリフと読めるのです。
エンタメ性とその絶妙なバランス
比較的シリアスな事件を扱っているのに、ほどよい緩急で各話を見せていて、かつ、各話を拾い上げながら、クール全体で大きなドラマになっているプロットのエンタメ性という両立が素晴らしかったです。
先に話した九重が逃がした高校生の成川、隊長と一緒に暮らしていた謎の女性、暴力団のマネーロンダリングに加担していた被害者、外国人留学生と伊吹の恩人、それとなく出てくる人物や出来事が、いつの間にか大きな渦の中心になって、ドラマを動かしているのです。
昨今の考察ブームで、「伏線当て」が主流になる中、野木脚本は「回収」後になんでもなかったものが伏線だったことに気付かされる、という関係性が主流になっています。
私は、これが伏線と回収の正しい関係性だと思っているので、私の中のドラマとしてのエンタメ性の基準にしています。
それに照らし合わせると、かなりエンタメ性が高いドラマです。
野木作品の登場人物たち
4機捜の4人のキャクターがわかりやすいことで、人間関係のドラマも生まれ、そこに、登場人物たちに感情移入する余地が生まれて、「事件解決」というドラマの大きなストーリーに奥行きで広がっていました。
野木亜紀子さんが描く人物というのは、最初は非常にわかりやすく、我々の中にあるテンプレに綺麗にハマる人物が、ドラマが進むにつれて、人間関係が交錯して、登場人物たちの厚さが増してくる、というのが特徴だと思います。
この厚みが、事件とか出来事というよりも、人間関係の中で増してくる、これが野木脚本の登場人物の魅力です。
人と人が関わっていく、当たり前なのに蔑ろにされているところを野木亜紀子さんは常にドラマの中心に据えています。
おわりに
なんだか野木亜紀子コンテクストでの話が多くて、もっと違うコンテクストで思ったこともあったりしたのですが、例えば1話の伊吹の運転シーンのカット割りとか、もういいですね。
今回書き留めた「MIU404」はU-NEXTで配信されています。
それにシナリオブックも販売されています。うちの本棚にもありますので、読みながら、2周目なんていうのも面白いです。希望する方、貸しますので、ご一報ください。
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