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なぜ私はラーメンとカレーセットにこだわるのか

 先日駅で立ち食いそばを食べた。お腹が空いていたので、沢山食べたい気分だった私は、かき揚げそばにセットでカレーをつけて注文した。五分も経たずにでてきたそれを私は受け取り、カウンターにおいて食べ始める。まず私はかき揚げそばを平らげたあと、カレーに取り掛かる。そばを食べたあとに、まだカレーが残っているウキウキを感じた瞬間、過去の記憶が蘇った。

 あれはまだ私が物心ついたばかりの頃。当時電車が好きだった私は、西武池袋線の特急電車「ニューレッドアロー号」が新しく導入されたことを知った。子どもながらに紫色の車両と赤いラインに魅了されていたと思う。そしてどうしても乗りたいと母に駄々をこね、結局祖母が一緒にニューレッドアローに乗せてくれることになった。おそらく行き先は秩父だったと思う。

 どういう流れで祖母が連れて行ってくれたのか、という記憶は定かではない。また、乗ったときの記憶もほとんど残っていない。当然だ。車体が好きなのに乗ったら車体は見えないからだ。だが唯一強烈に覚えているのは、到着先の秩父駅で食べた「ラーメン・カレーセット」だった。

 食事にはメインを一つしか食べてはならない、と思っていた私は、そのラーメン・カレーセットを観た瞬間に狂喜した。二つの好きな食べ物を同時に一食で味わうことができるのだ。当時食べる量に自身があった私は、祖母の本当に食べ切れるのか、という不安をよそにそれを注文した。

 結局、私は食べきることができなかった。それほどまでに主食二つ分の壁は高かったのである。食べきれなかった私と祖母は、秩父観光はせずに普通電車で池袋にとんぼ返りをしたのだ。

 あれから二十年以上たったが、私は二種類の主食を一緒で食べることになんの抵抗もなくなった。もちろん大人の胃袋だ。食べきることができる。

 それでも秩父駅の一角の食事処で、ラーメン・カレーセットを食べきれず挫折を味わった過去の私を思い返さずにはいられないのである。

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