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金沢妖手帖

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金沢は決して奥の奥を見せない。ほんの少しだけ覗かせるだけである。
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2018年4月の記事一覧

月読み4

「お使い、ありがとうございました」

インク壺を渡すと月夜さんはふくふくと笑みを浮かべた。どうやら喜んでいただけたようだった。

「あの、それとこちらが領収書です」

領収書を貰っておくなんて我ながらファインプレーだった。25000円しっかり請求せねば。そうでなければ私の明日は暗い。月夜さんは領収書をちらと見て

「あぁ、手数料分をお渡しするのを忘れていましたね」

そう言うと立ち上がり本棚から本

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月読み3

 「日進堂」というのがその店の名前だった。隠れ家的店というより隠れ過ぎて辛うじて存在しているような店のように見えた。そもそもネットで検索してもわからない。このご時世に、である。

ようやく見つけ出した頃には夜になる一歩手前だった。別に約束しているわけでは無いけれど月夜さんが言った夕暮れ時に訪れないと何かよからぬことが起きそうな気がしたのだ。

店内に入ると無数の金魚が空中を気持ちよさそうに泳いでい

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月読み2

 その部屋は家の離れにある茶室のような小部屋だった。日も暮れた頃、離れを訪れると入口に白い提灯がぶら下がっていて明かりが灯っていた。暗いので提灯が闇夜に浮かんでいるようでここが現代なのかわからなくなりそうだった。

「お邪魔します」と小声で木の引き戸を開ける。部屋は予想通りの4畳半で両壁には本棚が隙間なく並べてあった。本棚にはパッと見た感じ私にはとても理解出来そうにない難しい本がびっしりと詰め込ま

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月読み‐月夜さんについてわかったこと‐

ツクヨさんは漢字で「月夜」と書く。美しい名前だが彼女の姿を見ることができるのは家族くらいである。以下の話は私が月夜さんに会う前に夕子さんから聞いた話だ。

月夜さんは夕子さんより3つ年上だった。幼少のころから霊感のようなものがあり、未来を言い当てたりして周囲を驚かせた。しかし、こういった特殊な能力を持つ子供はいつの時代も疎んじられる。事実、小学生位になると彼女は気味悪がられいじめられた。子供は残酷

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月読み

アルバイトの帰り、なんとなく古い街並みが見たくなり主計町をフラフラ歩いてみた。春休みももうすぐ終わり春の香りが少しずつ強くなりその匂いを風が運んで来て私の鼻をくすぐった。夕方に近づき闇が主計町の古い街を染め芸鼓さんが稽古する三味線の音色が現実と幻想の境界線を曖昧にしていく。

「あら、こんばんは」

幻想の世界を漂っていると急に声をかけられ驚き振り向くと見たことのある女性が立っていた。女性は着物姿

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