月読み4

「お使い、ありがとうございました」

インク壺を渡すと月夜さんはふくふくと笑みを浮かべた。どうやら喜んでいただけたようだった。

「あの、それとこちらが領収書です」

領収書を貰っておくなんて我ながらファインプレーだった。25000円しっかり請求せねば。そうでなければ私の明日は暗い。月夜さんは領収書をちらと見て

「あぁ、手数料分をお渡しするのを忘れていましたね」

そう言うと立ち上がり本棚から本を一冊抜き出し私に手渡した。

「これは…」

「この本を古本屋で売れば代金分くらいにはなるはずです」

「はぁ…ありがとうございます」

本当だろうか。疑いたくはなかったが、こんな汚い本が25000円の価値があるのだろうか。しかし、ここは余計なことを言わず受け取っておくのが無難だろう。信じるものは救われる…のだ。私は本を抱え部屋を出ようと引き戸に手を掛けると

「あなたは本当に良い人ですね」

と月夜さんが満面の笑みで言った。恐らくこの笑みには嘘は無い。本当に無垢な笑みで思わずドキッとした。

「そうですかね」

「そうですよ。また、遊んでくださいね」

これ、遊びだったのか。私の困る所を見て喜ぶのは妹と同じだな。そんなことを思いながら部屋を出た。月がぼんやり隣の雲を照らしている。このまま空を飛んで月の世界に行きたくなった。

この話には後日談がある。月夜さんに貰った本を次の日、犀川堂という古本屋に売りに行ったら10万円で売れた。値段を聞いた時信じられなくてもう一度聞いたが答えは同じだった。何でも大変珍しい本らしい。月夜さんはたぶん本の価値を知って私に渡したのだ。全ては彼女の手のひらで踊らされていたに違いない。

「また、遊んでくださいね」

月夜さんが耳元で囁いた気がして振り返るが誰もいなかった。

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