叔父
※ただの叔父の紹介話。
私は叔父と仲が良い。仲が良いというか、似ていて、相性がいいというのだろうか、波長が合うというのだろうか、とにかく、血が繋がっていないが、一緒にいるときは小さい頃からなんとなく居心地が良い。
叔父は私の住む家から約20分くらい車で行ったところに住んでいて、無口で、海が好きで、ダンプ乗りの還暦である。
私たちはいとこがハワイで結婚式をあげたときは(当時私は高校3年生)、アラモアナセンター(ハワイのショッピングセンター)で買い物を楽しむ母と叔母を横目に、一瞬で飽き、一緒に外の椅子でふたりの気が済むのを待っていた。ハワイの海が見えるホテルで早朝からベランダにでてタバコを吸ってくつろぐ叔父について、隣の椅子で外の白い空と海を眺めた。私のハワイの記憶に残るのは海と空が広大なことと、そこに静かに叔父がいたことだ。
たぶんだけど、小さい頃から自分の世界に入り込みがちで、細やかなものや社交に興味がなかった私は(大学生になるとやっと皆に追いつくが)、干渉が薄くて自由にさせてくれて、ぼんやりすることや景色に思いを馳せる時間を捻出してくれた(意図的ではないだろう)彼とのなんでもない時間をとても大切に思っているのだと思う。何もしない、をしてくれる人を探すのは難しいことだと思うし。
叔父は海好きが高じて、水上ジェットの免許を取ったり、仲間たちと海の家を立てる画策をして日々楽しんだりしているような海男だ。夏前は毎年沖縄に家族を連れてジェットを走らせに行く。本当は連れて行くというよりは連れて行ってもらっているような人だけど。小さい頃、叔父とその友達が海でやっていたバーベキューに参加したのを思い出す。彼は遊んでくれるわけではないが、気にかけてくれるみたいな人だった。ジェットに乗せてもらったこともある。モーターの音と波の音がうるさいので会話はなかったが、終わるともうちょっと乗りたいかどうかを聞いてくれて、足りない旨を伝えるともう一周してくれた。
小さい頃から女系家族で過ごしてきた私にとって、叔父はもしかしたら父のような存在だったのかもしれない。彼は怖い顔に似合わず、私のような子どもと話すときは〜なの?〜じゃない?〜かしら?と話す。たぶん怖い顔だからこそなのかもしれないけど。彼は今はもう亡き小さなポメラニアンと、その後少し遅れて飼ったもう一匹のこれまた小さなポメラニアンを愛した。二匹のポメラニアンたちは彼の後をついてまわった。彼の落ち着きは、犬たちにも伝わっていると思う、私にも伝わって、安心をもたらす。
大人になった後はあまり関わりもなくなっていたが、実家に帰ってきてから何度か皆でご飯を食べに行き、最近はまた関わりが増えてきた。昔と比べて身体が小さくなった。オジさんだったのが、少しずつおじいさんに変化してきたように思う、まだまだそう言うには若いけど。お腹に注射を打つとき、見せてくれる。痛くないよという。私は針とかは苦手だから、あんまり見たくないと言って見ない。
今でも同じ空間にいるときの居心地の良さは変わらない。喋らないけど同じ星出身だから平気、みたいな感じが未だ健在である。でも、たまに時が経っているのを実感する。また一緒に旅行に行きたいなあと思う。また海を眺めて、ジェットに乗って、黙って家族が服を選ぶのを待っていたい。できるだけ長く元気でいてねー。という、オチも何もない話。
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