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雑感


「人は生きる為に悲しむのだと思う。
でもなければこの悲しみの為に泣く自分があまりにも可哀想だ。」

そう、彼女は言った。
華奢な肩はいつにも増してその薄さに威厳を放っている。
僕はその折れそうな君を抱きしめてあげたいと思ったが、その威厳にあてられ、僕は一人の奴隷のように誇りを失い、君を抱きしめる腕を持たなかった。
持っているのはいつも言葉だけだ。

「人は生まれながらにして不平等であるとカミュは語った。
だから君の語る言葉は真実であるように僕は思う。
それはあまりにも人間的で、主観的で、射程を持たないそのテーゼが、
君が語るとアリストテレスさながらに雄弁に変わるからだ。

だから君の声色も、君の悲しみも僕は好きだ。
君は生まれながらにして、その不平等な声を持つが故に
他者を圧倒し、それ故に皆が君の声を羨むだろう。
人は死ぬ為に悲しむのではなく、現在の生の不平等の為に悲しむのだから。
だから人はまるで落とし穴を探すように慎重に、来る悲しみを選び取ろうとし、不意の悲しみに全力で悲しむ。

僕はそれに潜む生のダイナミクスを感じざるを得ないんだ。
悲しむという行為そのものに、とても行動的な感情 且つあらゆる生が濃縮されているんだ。」

「とてもアドゥレセンスな言葉ですね。」
彼女が微笑みながら、とても静かにものを置くように話した。
「悩む事が青春ならば、僕はいつまでも一人の青年だろうから」
僕は彼女の真意が分からず、努めて冷静な声色を引き出した。

僕らは思春期の香るこの場所でそんな人生とやらについて話している。
周りで行き交う人々は、生きる事についてひたむきに日々を耕す一方で
僕らはまるでアテナイの哲学者のように暇を人生に塗り変える。

これを読んでいる貴方にも、悲しい夜があるのだろうか。

”雑踏に消える微かな声量
生きる弱さの見せる豊かな幻
自衛による古き詩のようなレトーリケの為に。”



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