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中国カーボンニュートラル最新動向 ー 炭素排出権取引実施に向けた動き

16世紀から始まった化石燃料への依存によって、気温は当時から約1℃上昇しました。このまま気候変動対策が講じられない場合、猛暑日の増加、異常気象、作物の不作、動物の絶滅、感染症の増加等のリスクが上昇し、現在の生活が脅かされる可能性があると言われています。この状況に対して、世界ではIPCCやパリ協定を通じて国家間の連携が深まり、各国から2050年ないし2060年を目標にカーボンニュートラルの実現が宣言されています。今後は、化石燃料使用に対する規制強化や環境重視の投資家による、環境に優れた取り組みをする企業への投資の増加等が増えていくと考えられています。

特に、気候変動問題の主因である炭素に価格を付ける仕組として「カーボンプライシング」が注目されており、代表的な手法として「炭素排出権取引」「炭素税」があります。これらの仕組みを活用して各国が独自の取り組みを進めている中、中国ではどのような動きがあるのでしょうか。

本コラムでは、特に中国の「炭素排出権取引市場」とそれに関連する規制について紹介いたします。


中国における炭素排出権取引に関する最新動向

中国が進めるカーボンニュートラルへの動き

中国が掲げる政策として、2020年の国連総会にて「3060ダブルカーボン目標」が宣言されました。その中では、中国においても2030年にカーボンピークアウト、2060年にカーボンニュートラルの実現を目指すことが明言されており、法整備、取り組みが強化されています。

中でも、2021年に日本より一足先に国家レベルでの炭素排出権取引市場が導入され、既に2000社以上の企業が取引市場に参入しています。市場への参入は自主参加ではなく中国当局による指名制であり、指名を受けた企業は行政のガイドラインに従った取引市場参入に向けた対応が求められます。対象企業は中国国営企業や中国民間企業を対象としたものとは限りません。既に中日合弁の企業も含まれており、中国に工場などの生産拠点を持ち高い温室効果ガスの排出を行っている企業は今後指名を受ける可能性がありるため、各国が注視しています。
 

炭素排出権取引カーボンプライシング最新政策

2060年にカーボンニュートラルの実現を目指していますが、実際はより野心的な目標設定と推進が行われていることが伺えます。2021年の14次五カ年計画では、単位GDP当たりCO2排出量を18%削減するという拘束性目標が設定されました。また同年10月26日に国務院が2030年までの「カーボンピークアウトに向けた行動法案」を発表し、2030年のカーボンピークアウトに向けた具体的な取り組みや目標が掲げられています。
 

中国政府HPよりパクテラ作成

 
具体的な取り組みの一つである「カーボンプライシング」に関しては、2020年から生態環境部から以下4つが発表され、排出権取引に関する基本的な仕組みが整った状態にあります。

  • 2019年~2020年全国炭素排出権取引割当額総量設定と分配実施法案(発電産業)

  • 炭素排出権取引管理方法(試行)

  • 炭素排出権登記管理規則(試行)

  • 炭素排出権決算管理規則(試行)

 
このほかに、対象企業の指名を行うための「2019年-2020年全国炭素排出権取引割当管理の重点排出企業リスト」、排出量の算出方法を示した「企業温室効果ガス排出算出及び報告、検証指南(試行)」が公開され、2021年7月16日に「全国炭素排出権取引市場」がオープンしまた。2022年時点で取引量は5088.9万トン、総取引額は28.14億元に至っています。
 

炭素排出権取引に向けた行政要求プロセス

中国の炭素排出権取引市場は、自主参加ではなく中国当局からの指名制です。指名を受けた企業は、以下の図の流れで対応が必要があります。
 

中国政府HPよりパクテラ作成

 
ガイドラインに則りまず自社の排出量の算出が求められ、次に、算出した排出量とその算出のエビデンス(算出範囲、計算方法、排出係数など)をまとめたレポートを作成し、当局の審査を受けることになります。審査の中で情報の提出不足や算出に問題があった場合、当局からの差し戻しがあり、決められた期限までに再提出する場合もありますが、その後、審査を終えた後、他社の審査結果と合わせて排出権の割り当てが検討され、結果が各企業に通知されます。企業は割り当てられた排出権の余剰分と不足分を取引市場でトレードを通じて清算します。最後に清算結果について当局に提出し、履行できたか再度審査を受けて対応完了となります。
 

中国政府HPよりパクテラ作成

 
2021年の対応では、電力会社が上述の対応を履行完了まで含めて年内に完了するよう通知されました。電力会社の二酸化炭素排出量は、中国全体の40%を占めます。各電力会社は実際にこの対応を行い、その結果が生態環境部のHPなどで確認できるようになっています。
 

対象企業は?日系企業は含まれてくるか

では、どういった企業が対象になるのでしょうか。自分たちの会社は対応が求められるのか、気になるところかと思います。対象企業についても規制で言及されており、全国排出権取引市場に関しては「炭素排出権取引管理方法(試行)第八条」により、2つの条件を満たしている場合に対象となる可能性があります。

(1)全国炭素排出権取引市場がカバーする業界
  
石油化学、化学工業、建材、鉄鋼、有色金属、製紙、電力、航空
(2)年間2.6万トン以上の二酸化炭素排出がある場合

上記の条件を満たす温室効果ガス排出企業は、温室効果ガス重点排出起用リストに列挙されます。ただ、この条件に合致した企業全てがすぐ参入しなければならないということではありません。毎年、列挙された中から、国や省級行政区から発表される「全国重点排出単位リスト」に名前が入った場合に参入となります。
日系企業に対しては、全国炭素排出権取引市場に関していうと、中日合弁(日本の出資比率のほうが高い)企業が既に選出されています。また、全国炭素排出権取引市場とは別に、地方政府の炭素排出権取引市場も運営されています。こちらは全国とは対象企業の条件が異なり、上述の産業以外からも指名されており、上海市の重点排出単位を見ると多くの日系企業が選出されています。
 

日本企業はどうすべきか

日本企業に対しては、現状として以下の2点を念頭に置いておく必要があります。

  1. 排出量が国の定める基準値を超え、業界が当てはまる場合、重点排出企業に選出される可能性があり、炭素排出権取引に関連する一連の業務の実施を国や省級行政区から指示される恐れがある

  2. 中国国営や中国民間企業に限らず、中外合弁企業、日本独資も既に対象として発表されている企業がおり、排出状況次第ではどこの企業も対象になりうる

上記を踏まえ、「自社の中国における排出量は基準を超えているか」、「現時点の自社のカーボンニュートラルの対応状況」、「行政指示が来た時の対応準備」などの自社の対応状況を確認する必要があります。現時点では電力会社のみ一年内の履行が求められるが、今後は他の産業にも要求がされていくものと考えられます。一年でスタート、申請、審査、割当、履行まで実現するとなると、スムーズな対応が求められるため、早めに状況の確認と準備していく必要があるでしょう。
 

終わりに

最後までお読みいただいてありがとうございました。パクテラでは中国排出権取引市場参入に向けたコンサルティングサービスや中国の規制に適合した排出量可視化システムを提供しています。

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<執筆者:周 武憲 パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社> 


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