生存率は1万匹に1匹!? ニホンヒキガエルの産卵の裏側【パシフィコ動植物図鑑】
発電所内の調整池に、オスとメスのペアが卵を産みに来る
早春の夢前太陽光発電所の水路に響き渡る「アオアオ」という鳴き声。毎年2〜3月ごろ、発電所内の水たまり(調整池※)に、山から下りてきた大量のニホンヒキガエルが姿を現します。
ニホンヒキガエルが調整池を訪れるのは、産卵のため。彼らは普段、山で暮らしていますが、卵は池や湿地帯といった水辺で産む習性があるため、産卵期は山のふもとで過ごすのです。
ニホンヒキガエルのサイズは、アマガエルのようなカエルと比べるとかなり大きく、成人男性の手のひらサイズを超えることも。特に産卵期のメスはお腹にたくさんの卵を抱えているため、普段よりぽっちゃりしたフォルムになっています。
山を下りて来る際、オスのカエルはメスの背中におんぶされたような状態でいる、というユニークな特徴をもっていて、その理由は確実に子孫を残すためだと考えられます。実は、カエルのような両生類のメスは、一般的に体が大きければ大きいほど多くの卵を持っているので、オスはできるだけ大きなメスといち早く一緒にならなければいけない、と本能的にわかっているようです。
オスはメスを離さないよう必死かもしれませんが、私たち人間から見ると2匹がペアでくっついている姿は仲むつまじげ。どこか心が和むような光景でもあります。
このまま無事に産卵かと思いきや、カエルたちの中には水たまりを探す途中で発電所内の水路に落下してしまうものもいます。その場で産卵すると、産んだ後の親ガエルも、孵化してオタマジャクシからカエルへと成長した子ガエルも、水路から脱出することができません。このままでは山へ戻ることができなくなるので、カエルたちにとっては大問題。
そこで、発電所の職員は、毎年手作業で水路から調整池へカエルたちを移動させ、彼らが安全に暮らせるよう手助けをしています。
ちなみに、ニホンヒキガエルの卵は紐状の袋に入った状態で産まれ、その数は1回の産卵で約1万個! 数百匹のニホンヒキガエルによって産み落とされた卵が、調整池でうねうねと波打つ光景には、毎年のことながら職員も圧倒されています。
孵化した卵はオタマジャクシとなり、5〜6月ごろには1cm程度の成体に。その後は池を出て山を登っていきますが、ヤマカガシやカラスといった天敵に食べられてしまうものも多く、生き残れるのは、なんと1万匹に1匹程度とも言われます。
過酷な環境を生き抜いたニホンヒキガエルたちが、無事に産卵期を迎えてまた調整池に帰って来てくれるよう、夢前太陽光発電所では今後も繁殖の手助けを行なっていきたいと考えています。
※調整池・・・大雨による洪水被害などを防ぐため、河川に流れ出る雨水を一時的に貯めて水量を調節する池。夢前太陽光発電所の調整池をすべて合わせた広さは東京ドーム半分ほど。
発電所内で確認できた動植物については、「ソーラーファームの動植物園」にまとめています。こちらもご覧ください。