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君の髪からは金木犀の匂いがした

あの子と僕は友達でも知り合いでもない。

赤の他人だ。

挨拶もない。

言葉を交わすこともない。

笑っているあの子はいつも眩しい。

休み時間に1人で読書をしているような僕とは違う世界の住人だ。

あの子は大抵、窓際で女友達とファッションとかメイクとか、休日のショッピングの予定とか、たぶんそんな話をしている。

次の授業は移動教室だ。

僕は化学の教科書を取り出し、おもむろに立ち上がり、教室を出る。

あの子の友人達が走りながら僕を追い抜いていった。

友達から少し出遅れたあの子は「待ってよ」と笑い、1つにまとめた長い髪を揺らしながら僕の隣を通り過ぎる。

柔らかい髪が僕の鼻腔をくすぐった。

君の髪からは金木犀の匂いがした。


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