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覚え書き:アルスターの18個の盾について

アイルランドの伝承のうち、アルスター物語群には、18個の名のある盾があるという。

私が最初に知ったのはtwitterで、しかもその人は「ケルト神話18の盾」と、明らかにケルト神話に詳しくないであろう勘違いをしていたのだが、それはさておき。

その人が見たのは恐らくこのサイトでしょう。Fantasy Box of Forlorn Curios / 幻想アイテムの拾遺匣 (http://home.ix.netcom.com/~kiyoweap/myth/arms-weap/_fantasy-items-idx.htm)

さて、このサイトではトマス・キンセラ訳の『クアルンゲの牛捕り』を挙げているので、見てみますと、次のように書いてあります。細かい説明は省略。

・オハン (Ochain):コンホヴァル王の楯

・ドゥバーン (Dubán):クー・フランの楯

・ラーウサバズ (Lámthapad):コナルの所有

・オフニャッハ (Ochnech):フリダシュの所有

・オルジェルグ (Orderg):フルヴァヂャの所有

・コスクラッハ (Coscrach):クースクラズの剣

・エフタッハ (Echtach):アウァルギャンの所有

・イル (Ír):コンヂャリャの所有

・カニャル (Cainnel):ヌァザの松明

・リョハン (Leochain):フェルグスの剣

・ウアサハ (Uathach):ドゥヴサハの所有

・レタハ (Lettach):エルギェの所有

・ブラダハ (Brattach):メンの所有

・ルセハ (Luithech):ノイシュの所有

・ニサハ (Nithach):ロイガレの所有

・クロダ (Croda):コルマクの所有

・シュキアサルグラン (Sciatharglan):シェンハの盾

・コムラ・カサ (Comla Catha):ケルトハルの所有

はて、盾なのではなかったか?と疑問に思い、Wikipediaを見てみると、次のようにある

Some of the shields are construed to be swords by contemporary translators and dictionarists
盾のうちの一部は現代の翻訳者や事典編集者によって剣と解釈されている

つまり上記のリストはトマス・キンセラによる解釈である、ということであると。すると、原典を確かめるまでは迂闊なことは言えない。んで、原典は有名な12世紀の写本『レンスターの書』(Lebor Laignech, Book of Leinster) にあるとのこと。

コーク大学が公開しているCELT: Corpus of ELectric Textsという大変ありがたいサイトでは、ケルト関係の豊富なテクストの電子化と無料公開をしているので、こちらで"The Book of Leinster, formerly Lebar na Núachongbála"を参照すると、次のようにある (p. 403) 。

Ind Ochoin Chonchobuir and .i. sciath Conchobuir. cethri imle óir impe. & Fuban Con Culaind. & Lamthapad Conaill Chernaig. & ind Óchnech Flidais. & ind Orderg Furbaide. & in {MS folio 107a 5} Choscrach Causcraid. & ind Echtach Amairgin. & ind Ír Chondere. 12510] & in Chaindel Nuadat. & ind Leochain Fergusa. & ind Uathach Dubthaig. & ind Lettach Errgi. & in Brattach Mind. & ind Luithech Noisen. & ind Nithach Loegaire. & in Chroda Chormaic. & in {MS folio 107a 10} Sciatharglan Senchada. & in Chomla Chatha Cheltchair.

はい、ここですね。OchoinとかFubanとかの単語があるのでわかるかと思います。Chomla Chathaのところまでですね。

さて、問題はこれらが盾なのかどうかということですが、盾 (sciath) と明言されてるのは最初のInd Ochoin Chonbobuir(「コンホヴァルの『オハン』」)のみですね。これに続いているので全てが盾と解釈されていた、ということなのでしょうか。そこらへんはKinsella以前の翻訳などを見てみないといけないでしょうか。

引用箇所より前では、「投槍と盾と剣」(na gae & na scéith & na claidib) とあるので、これらが本当に盾かどうか、ここからでは判断できないと思われます。

こんなところですね。また何かわかったら書きます。

参照文献:The Táin: From th Irish epic Táin Bó Cuailinge, Thomas Kinsella (tr.), Oxford University Press, 1969.

Scéla Conchobair - Wikipedia (2017/3/23 閲覧)

Fantasy Box of Forlorn Curios / 幻想アイテムの拾遺匣 (2017/3/23 閲覧)

CELT - The Book of Leinster, formerly Lebar na Núachongbála (2017/4/28 閲覧)

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