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名前をつけてやる

名付けのセンスがない。
友達にもらったぬいぐるみは、触り心地が良いからふわふわちゃんだし、高校生の頃、クラリネットにつけた名前はクラ子ちゃんだ。
ネーミングセンスのある人が羨ましい。何食べたらセンス良くなるのか教えて欲しい。

ちょうど一年前、初めて一箱古本市に参加した。
本業は別だが、実は本屋さんに憧れていた。
本屋講座で一箱古本市の話を聞いて、近くでやっていないか探してみたところ、住んでいる場所から車で1時間半くらいの場所で開催するという情報を得た。

迷った。行ったことない場所だし。運転は下手くそすぎて、免停一歩手前だし。
島には高速道路なんてハイカラなものはなかったので、高速も運転したことがない。
散々考えた末、参加を決めた。家からほぼ直線だし、高速使わないルートもあるし、多分なんとかなる。

ドキドキしながら、参加フォームに入力する。
住所、名前、参加回数。屋号。
おっと、屋号。そうだよな、店の名前いるよな。
完全に見切り発車だったので、名前のことまったく考えていなかった。
ゆっくり考えたかったけど、出店申し込みの締切は今日だ。

せっかくだから、なんか島っぽい感じあるといいよな。
地元の名産品、観光地、色々候補を考えるけど、どれもしっくりこない。

島といえば、なんだろう、海?
頭の中に、船乗り場で悠々と飛び回るうみねこたちの姿が浮かぶ。
うみねこ、いいかも、スピッツの海ねこって曲も好きだし。港にたくさん飛んでるし。
うみねこ書房、響きもいいじゃん。決まりだな。
屋号の欄に、うみねこ書房、と入力し、えいやっとフォームを送信する。
名前をつけると、なんだか一気にお店っぽくなった気がした。

本当は可愛い看板など用意したかったけど、絵心は母親のお腹の中に置いてきた。
妹は二人とも絵が上手なので、無事に私の分の絵心も回収されたんだろう。脱線した。
イラストを描いてもらえるツテもないので、とりあえずミニ黒板に店名を書く。
夫の読まなくなった本も提供してもらい、昔作ったZINEも持って行く。
どうにかこうにか、体裁は整えた。

お客様来なかったらどうしよう、と緊張して夜中に目が覚めたりしながら、ついに当日。
心配していた運転は、夫が店番の手伝いと送迎をしてくれるというので解決した。
お客様も、思っていたより来てくれた。

だけど、立ち寄ったお客様が、店の看板を見て「うみねこ、なんか聞いたことある」「私も見たことあるかも」と言い出した。
一人二人なら偶然かもしれないが、何組かのお客様が知ってるっぽい雰囲気を出してくる。

何回か出店したことがあれば、やーだもう、私も有名になって来たかな、と自惚れることもできるけど、初出店だ。SNSの類もやってない。
なんてこったい、やらかした。これはおそらく、他に有名なうみねこさんがいらっしゃるということではないか。
本家のうみねこさん、申し訳ない。真似したわけじゃないんです。

宮沢賢治のよだかの星が頭をよぎる。
我々も、よだかよろしく改名しましたの札を首から下げて、出店者の皆様にご挨拶に回らなくてはならないかもしれない。
半分冗談、半分マジでそんな事を考える。

帰りの車内で調べてみたところ、市内に似た名前の素敵なカフェがあるらしかった。
多分、お客様が言っていたのはここのお店だ。

夫に、「店の名前がかぶってるっぽいけど、どうしようね」と相談してみる。
まだ初回だし、屋号を変えるなら今だ。
二人で色々な候補を挙げてみる。
おけさ書店、かもめ書店、ひばりはどうか、いっその事、島書店は?
色々挙げたけど、どれもピンと来なかった。何より、ほぼ思いつきで決めた屋号だけど愛着がわいてしまっていた。
実店舗はないけど、初めての自分のお店だ。
今日一日、私はおっちょこちょいの事務員じゃなくて、うみねこ書房の店主だったのだ。
結局、屋号は変えなかった。

2回目の参加の時も、コーヒー屋さんだよね、パン売ってるわよね、と声をかけられた。
すみません、名前が似てるけど、別のお店なんです、と返す。
紛らわしくて、申し訳ない。
コーヒーとパンの代わりに、本を売っている。
腹か満たされない代わりに、心が満たされたらいいななどとちょっと照れ臭いことを思いながら、店番をしている。

我々の店の名前はうみねこ書房。
生まれ故郷の海ねこたちが、名前の由来だ。
ネーミングセンスゼロの私にしては、花丸あげたい素敵な名前をつけたんじゃないかなと思っている。








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