西も東もわからない
「右も左もわからない」という言葉があるが、わたしは東西南北がよくわからない。
この話をすると、かなりの確率で「太陽が昇ってくる方が東だよ」と言われるのだが、ちょっと待て、話をややこしくしないで欲しい。
わたしだって、その程度の知識は持ち合わせている。でも、日々生活していて「あ、太陽が右にあるなあ」なんて思わないじゃん。
太陽は、目が覚めたらお空でサンサンと輝いているものであって、どっちからやってくるかなんて気にしたこともない。
方角がわからない上に屁理屈をこねるなんて、どうしようもねえ女だなとは思うが、わかんないものはわかんないのだ。
数年前、友人に「東西南北に自信がない」とカミングアウトしたことがある。
あんぽんたんなことを言うわたしに、友人は東西南北の見分け方を調べて、教えてくれた。
「ぽん子ちゃん、北って漢字で書くと、右側がカタカナのヒに見えるでしょ」
わたしは、カフェのテーブルに「北」と書いてみる。「あー!ほんとだ!」
「だから、北を向いて立ってるとき、ヒの方が東なんだってさ」
えー、なるほど!めちゃくちゃわかりやすい!
「ありがとう!覚えておくね!」と友人にお礼をしたのはいいものの、肝心の北がどちらかわからない。
しかし、そんなわたしにも、ついに東西南北を認識する日がやってきたのである。
リビングで夫と話していて、何かの流れで、「うちからだと東の方かな」など方角の話になった。
わたしは、いつものように、「だからさ、東がわかんないんだよー」と言いかけて、ふと思い出す。
そういえば、何日か前、なぜか早朝に目が覚めて朝焼けが昇ってくるのを見たんだった。
「あ、待って!!わたし、この前、向こうの方から朝焼けがでてくるのみたよ!だから、あっちが東だね!」
興奮ぎみのわたしに、夫はやや引きながら「そうだね」と相槌をうつ。
わたしの頭の中に、いつぞやの友人の言葉がよみがえる。「ヒは東のヒなんだって」
バチバチと回路がつながっていく。
脳内で、「北」という漢字を思い浮かべる。
こっちが東、ということは、おー!わかった!
「わたしは、今、北を向いて座ってるってことか?」大発見!という顔で夫の方を見る。
「そうだね、そっちが北だね」
すごい!やっとわかった!東!西!南!北!
「ウォーター!」と言ったヘレンケラーもこんな気持ちだったのではないか。
わたしの場合は、ウォーターじゃなくて、「イースト!」だけど。
朝焼けが昇ってきた方向を見て、「こちらが、東かあ」と心の中で噛み締める。
まあ、家から一歩出れば、多分また方角音痴に逆もどりするだろうけど。
わたしは家のなかで、時々、「北」「東」と方角を確認して、ちょっぴり嬉しくなっている。
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